ぼくが見て感じたスリランカ13

               バス旅行 1     赤岡健一郎


 スリランカでは親戚や友人同士でバスを借りて旅行に出かける事がよくあります。カタラガマ詣での様に一族郎党が数日かけて泊りがけで出かける大掛かりなものから、山間部の人が海岸に日帰りピクニックに出かけたり、逆に海辺の人が山間部に川遊びに出かけたり様々なバス旅行をします。カタラガマはスリランカで一番有名な聖地で昔の「お伊勢詣で」のような感じでしょうか。

 今回は同僚でもある友人のマンチャナイケ(通称マンちゃん)の親戚一同約50名と行った川遊びツアーの話をしようと思います。

 誘いは突然で、水曜日の朝に「今週末は暇か?ピクニックに行かないか?」といった調子だったので近場へのピクニックだろうと考えて気軽に参加しました。ところが、後で聞いた話ではこのツアーは年に一度の恒例行事で、マンちゃんは数ヶ月前から親戚一同のスケジュール調整と行き先の希望を聞いて、仕事の合い間というよりは上司の目を盗んで、これをメインワークとして段取りしたものだそうです。

 実は上司とは僕の事で、これを悪びれずに言っちゃうところがスリランカ人気質でしょうか。スリランカでは、このような旅行の幹事役を仰せつかるのは大変な事で、この仕事を任されるのは親戚間で立派な男性と認められ、ある種のステータスになるのだそうで、マンちゃんも鼻高々でした。

 特に今回は一族史上初めて外国人(僕の事です)を招待したので余計に鼻が高かったようです。外国人とはいっても川遊びだと聞いていたので、くたびれたアロハに短パン・ビーチサンダルの格好で集合場所に行くと、他の参加者は「よそ行きの晴れ姿」だったのには驚きました。目的地に着いたら着替えて、思いっきり遊び、食べ、歌い、踊り、帰り際に水浴をして汗をながして、再びよそ行きに着替えるのがスリランカ流のようです。スリランカ人が清潔好きなのを忘れた僕は、皆と一緒に水浴をしたものの汗臭いアロハを再び着る羽目になり、スリランカ流の方がよっぽど気持ちよく旅が出来る事を知りました。

 さて、バス旅行の出発はコロンボ郊外のマハラガマからでした。集合時間より少し早めにハイレベルロード(国道4号線)のマハラガマ交差点に行ってみると、マンちゃんの姿は見えず4,5人の老人がたむろしながら、短パン姿の僕の方を胡散臭げに見ています。

 スリランカ人が集合時間より早く来る事は稀なのですが、話をしてみるとこの老人たちはマンちゃん一族の長老達で、マンちゃんのお目付け役としてかなり前からこの場所に来ていたそうです。この老人達は英国植民地時代を経験しているので実に優雅なクイーズイングリッシュで話をするので、ブロークンイングリッシュのこちらが恥ずかしくなります。

 集合時間になっても、この老人達と僕以外には人は集まらず、マンちゃんもまだ姿を表しません。30分ぐらい過ぎた頃から参加者が集まり始めましたが、予定していた人数の半分もいません。こんな事はスリランカでは至極あたり前のことで、誰も文句も言わないどころか近くの食堂にお茶を飲みに行ったりして、折角集まったのにどんどん人数が減ってバラバラになってしまいました。

 集合時間を1時間ぐらい過ぎた頃に漸くバスがやってきました。バスにはマンちゃんの他に一族の若者達が乗り込んでいました。聞けば、昨夜から徹夜で今日のためのご馳走を作っていたそうで、このご馳走を積み込んだりしていて遅くなったようです。この遅刻でマンちゃんはお目付け役の老人達からかなり絞られていた事は言うまでもありません。

 余談ですが今回借りたバスは、普段はコロンボとゴールを往復している民間の路線バスだったので、バス停を通過する毎に待っている人が手を上げて止めようとしたり、スリランカではよく見かける光景ですが動いているバスにお客さんが飛び乗ってきたり、飛び乗ってきたお客を追い出す為に交わすお客と男達の遣り取り、それを囃し立てる女性達と大騒ぎで面白かったです。

 バスはやっと来ましたが、集合場所に一旦は来たものの何処かへ行ってしまった人、まだ来ていない人がいて、なかなか出発できません。その場にいた人達が手分けをして連絡をしたり、近所の食堂を探したり、せっかく戻った人が再び何処かへ消えたりと、なんとか2時間遅れで出発する事ができました。なんだがちりぢりばらばらに逃げ廻る羊と追い立てるボーダーコリー(牧羊犬)を見ている様です。僕もスリランカ人の時間感覚には慣れている方ですが、集合時間を1時間過ぎてもまだ自宅で支度をしている人、2時間遅れて来た人に対しても非難がましい事は言わずに何事も無かったかのように迎え入れる姿には驚きました。

 僕は飛び入り参加をさせてもらったのでビールとウィスキーを差し入れました。このせいか、直ぐに皆に受け入れてもらう事が出来た上に、お酒を差し入れた事でちょっと面白い事を観察する事ができました。 スリランカでは昼間からお酒を飲むという行為は一般的ではありません。でも世界中のどこの国にいっても同じ様な物だと思いますが、男達は目の前にお酒があると昼間でも飲みたくてウズウズし始めます。特にバス旅行という楽しい事の最中なので我慢できるわけがありません。

 ところが、女性達特に奥方達は亭主が飲もうとすると睨みつけるだけでなく、かなり厳しい口調で何事か怒鳴りつけます。シンハラ語なので何を言ったのかは判りませんが、周囲の奥方達にも同意を求め、怒鳴った後で大笑いをしています。長老達とて同様で、男達の中での権威もどこかにいってしまい、奥方の目を盗んではチビチビとウィスキーを飲んで顔を赤くしては怒鳴られていました。

 何だか、スリランカの家庭の中での男性の立場がわかったような気がします。更に驚いた事に若い女性達も母親の目を盗んで、少量だけですけれどビールを飲んで酔っ払っていました。これって、スリランカの一般家庭の日常では有り得ない事です。

 車中及び川遊びについては次回書かせて頂きます。


              僕が見て感じたスリランカ・目次へ         TOPへ