ぼくが見て感じたスリランカ14

                    バス旅行 2      赤岡健一郎

                  


 前編では、マンちゃん一族の旅行のために借りたバスはコロンボとゴールを往復している路線バスと書きました。旅行の話は少しの間横に置いて、ここでスリランカの路線バスと運転手気質について書こうと思います。


 路線バスには色々な種類があります。インターシティと呼ばれる主要ターミナルだけしか停車しない冷房とTV完備の特急バスから、自然換気だけの各駅停車バスまであります。これらの路線バスには公営と民営だけでなく、もぐりの無認可バスまで存在します。もぐりのバスは神出鬼没で、走るルートもその日の運転手の気分任せで、始発駅と終着駅はいつも同じですが途中のルートが毎日のように変わります。


 料金はインターシティの方が高い事は言うまでもありません。インターシティは客席数しかお客を乗せないので、込み合うことも無く快適に乗車できるのですが、料金が高い分だけサービスを良くしようという事なのか冷房が効きすぎているために、熱いスリランカだというのにわざわざ上着を用意して乗車する人もいます。


 各停バスの料金はインターシティの半分程度です。こちらの方は前編でも紹介したように、お客は停留所以外でも走っているバスに飛び乗ったり、飛び降りたりと自由気儘に利用しています。朝晩のラッシュ時間にはお客が出入り口から車外に溢れるほど詰め込むので車内では身動きができなくなります。


 不思議な事にどんなに身動きできないほど混んでいても車掌はお客を掻き分けて料金を取りに来ます。どうしても近寄れない時にはお客さん同士が手渡しリレーで車掌へ料金を届けます。お釣りがある時には逆に車掌から手渡しリレーでお客さんに届けられます。スリや痴漢もお客に紛れ込んでいて、現場を見つかり袋叩きにされて車外に放り出される光景をしょっちゅう見かけます。各停バスの方がスリランカ人の日常生活が見られるので、僕はこっちの方が好きなのですが、暑いのには参ってしまいます。冷房が無いために、乗客全員が汗まみれでこれこそ本当のサウナバスになってしまいます。


 使っている車両は、インターシティは日本製の中古バス、各停バスの方はインド製バスかインターシティからお下がりの日本製中古バスと考えて間違いありません。日本製の中古車には日本で使っていた当時のままの装備と日本語の広告が残されています。例えばどこかの市営バスがそのまま使われていて、前面上部の行き先パネルには○○市役所行きと表示されていたり、車内に日本語で書かれているワンマンバスの降車押しボタンや非常口の表示があったり、側面に○○百貨店やら○○海苔店の広告がそのまま残っていたりします。何故そのままかと云うと、日本から直輸入の証明になるからで、転売する時に高く売れるからだそうです。町田にお住まいの方にはお馴染みの桜美林学園の青と黄色に塗られたバスもあのままの姿でスリランカの道路を走っていますので、スリランカに行く機会があったら是非とも探して下さい。


 日本製とインド製バスには冷房以外にもサスペンションと座席のクッションに大きな違いがあります。日本製もかなりくたびれていますが、インド製ではサスペンション、クッションともに役目を果たさずガタガタです。マイクロバスの場合には、昇降口のある側に乗客が集中する為にこちら側のサスペンションがいかれて、常に傾いて走っているのは日本製・インド製ともに同じです。今回の旅行ではインド製のバスだったために舗装道路ではあまり感じませんでしたが、脇道にそれて未舗装道路に入ってからはお尻にかなりの痛みがありました。


 さて、家族旅行のバスがようやく出発した車内では、通常ではお坊さんの指定席である一番前の席に道案内役のマンちゃんが座りました。因みにスリランカでは一番前の席が最上席と考えられています。


 他のアジア各国と同様にスリランカのバス運転手のマナーは悪く、スピード違反や無謀な追い越しはあたり前、ブラインドカーブでも速度を落とさずに突っ込むので、そこかしこで交通事故が発生します。このような事故は正面衝突なので当然の如く運転席と共に一番前の席が最も危険なのですが、どういう訳か最上席とされています。お坊さんは事故よけのお呪いなのか、単に景色が良く見えるからでしょうか?どんなに混んでいても、お坊さんが乗車してくると前の席に座っていた乗客は素早く席を譲ります。複数のお坊さんが乗ってきた場合には、その人数分だけ前の席の乗客が席を譲ります。混んでいる車内を掻き分けて一番前まで行くだけでもご苦労な事だと僕は思うのですが、乗客全員が協力して体をずらしてお坊さんの通路を作り、お坊さんも乗客を掻き分けて前に進みます。


 次に不思議なのは運転手気質です。どんなに運転マナーの悪い運転手でも、路線上にあるお寺の前ではバスを止めてお祈りをします。たいていの運転手には個別に信奉しているお寺があり、そのお寺の前ではその日の最初に通過する時にお賽銭を置いて長い祈りを捧げます。何をお祈りしているのか聞いたところ家内安全と健康、そして交通安全だそうです。ところが交通安全のお祈りを終えるや否や、ウィンカーも出さずに路上に飛び出していくのには驚きです。どうやら安全は運と対向車線をやって来る相手方運転手の力量に頼られているようです。何故こんなに先を急ぐかと言うと、民営ともぐりバスの場合には運転手イコール経営者である事が理由と考えられます。つまり、1往復でも多く走れば、それだけ収入が多くなるので形振り構わずに突っ走ると云うことです。


 旅行の幹事役として最上席に座れただけで、集合時間に遅れて長老達から油を絞られた事もすっかり忘れて、マンちゃんはご機嫌で運転手にあれやこれやと指示しています。お酒が少し入ってからは益々機嫌が良くなって、席を立って車内を動き回っては何やらまくし立て、歌い、踊り、笑いと忙しくしています。


 バスと運転手の話を書いているうちに、旅行の話を書くスペースが無くなってしまいました。車中とピクニックの様子は次号で書く事にします。


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