お正月が毎年変わる・・・?

 スリランカのお正月は日本と違って毎年同じ日ではありません。4月13日か14日なのですが、どちらの日になるかは高名な僧侶や占星術師が星の動きを見て決めます。

 新年がどちらの日になるか決まると、テレビ、ラジオ、新聞などで発表されます。この場合にも日本と違って、単に曜日が決まるのではなく、何日の何時何分から新年が始まると発表されます。日常生活や経済活動は西暦で動いていますが、伝統的なお祝い行事としてのお正月はこの時間からスタートします。同じ様に、結婚式等の冠婚葬祭や公式行事の開始時間も占星術によって決まるので、時としてとんでもない早朝や深夜に始まったりして驚かされます。

 スリランカのカレンダーでは西暦の1月1日だけが祝日になります。但し、日系企業の多くは日本の本社に合わせて年末年始の長期休暇を取りますし、欧米企業もクリスマス休暇を併せて取るので大概の駐在員は年に2回新年を祝う事になります。

 シンハラ新年は10日近く休みになり、会社や商店は店を閉めっぱなしになります。コロンボに住んでいる人達の多くもそれぞれの故郷を目指して民族大移動を始めます。お金持ちや外国人の家に住み込みで働いている人達にとってはお正月だけが唯一の長期休暇で、それぞれ雇い主からボーナスとお小遣いやお土産を貰って故郷に帰ります。

 お正月の準備は4月になると直ぐに始まります。故郷の親戚や友人、コロンボに住む同郷の友人と連絡を取り合って帰省スケジュールを調整したりするのに忙しくて、4月に入ると仕事どころではなくなる人が多くなります。

 キャンディ出身でコロンボに住んでいる友人のニシャンタを例にしてみましょう。先ず、4月に入るとお正月の晴れ着を購入します。コロンボ市内にある、House of Fashion等の量販店はこの時とばかりにバーゲンセールを開始し店内はお客であふれ、店の外でも入店を待つ人でごった返します。

 待つ人達のおしゃべり、ガードマンの笛の音、路上にまで出ている人を蹴散らすクラクションの音などで、更にお正月気分が盛り上がってきます。親戚や友人達へのお土産を選ぶ事も悩みの種になります。ペッターやフォートの商店に何度もでかけては品定めをします。日本でも奉公人にとって盆とお正月しか休みがなかった頃はこんな具合だったのかと想像されます。

 お正月休みが始まると、長距離バスのターミナルや鉄道の駅は帰省客でごったがえします。宅急便なんて無いので荷物を先に送ることは出来ません。各自が可能な限りの荷物をもって車内に乗り込みます。僕はこの時期のバスや列車に乗った事がないので定かではありませんが、ニシャンタから聞いた話では車内では一緒に帰省する家族、親戚、友人等が一斉に近況報告を始め、その話し声で鳥篭に首を突っ込んだような騒音だそうです。

 無事に故郷に戻り旧交を温めているうちにお正月が近づきます。各地にお正月用品の臨時マーケットが開かれ、お正月の前日には食品等の買出しに出かけます。キャンディの場合は鉄道駅のそばにある刑務所の周りが正月用品のための屋外マーケットになります。

 ここで、お正月用の食材や雑貨など何でも揃える事ができます。スリランカでは買出しに男性が出かける事が多いです。男性に言わせると自分達がお財布を握っているからと言います。

 実際のところスリランカ女性はかなり強く、家庭内の実権を握っています。男性は買出しメモを持たされて買出しに行かされ、山の様な荷物を持って少しでも安い商品を探してマーケットの中を歩き回っています。但し、男性にとってもマーケットを歩き回るのはめったに会えない知り合いに会えたり、家の掃除をさぼれたりして、楽しくてしかたがない様に見えます。

 お正月当日には、全ての儀式の時間が決められていてテレビで秒読み付きのアナウンスがされます。新年で最も大事な儀式は「かまどの火入れ」です。女性達はテレビの秒読みに釘付けで時間を待ち、かまどに点火して鍋で牛乳を沸かします。牛乳をわざわざ沸騰させて、こぼれ具合でその年の吉兆を占います。どのようにこぼれてもそれなりに吉となります。

 その他に沐浴時間、仕事始め時間、新年最初の外出時間などが決められています。お正月に食べる特別な料理として最も大事なのは、縁起の良い食べのものと言われるキリバトゥで、ココナツミルクと塩を加えて炊き上げたご飯です。家族や親戚、友人を含めて大勢で賑やかに食べるのが一番の楽しみです。

 お正月の数日間は親戚を訪ねたり、友人に会ったりするうちに瞬く間に終わり、再び故郷から戻る民族大移動です。きっと、帰りの車中で次の年のお正月に思いを巡らせている事でしょう。