ぼくが見て感じたスリランカ紹介8 【キャンディロードのカシューナッツ娘】 

            赤岡健一郎  スリランカ日本武道協会/日本スリランカ文化交流協会



 コロンボからキャンディに向かって国道1号線(キャンディロード)を55kmほど進んだところにガジュガマという小さな村があります。シンハラ語で、ガジュはカシューナッツを、ガマは村を意味します。沿道の風景を見ながらキャンディまで旅をするだけでも楽しいのですが、運の良い人は更にサル使い、ヤマアラシ使い、ヘビ使い等の大道芸人にも遭遇する事が出来ます。残念ながら大道芸人達と遭遇出来なかった人でも、ガジュガマでは必ずキャンディロード名物のカシューナッツ娘に会う事が出来ます。今回はこのカシューナッツ娘を紹介します。

 ガジュガマはその地名が示すようにカシューナッツの産地で、産地直売をしているのが今回の主人公の娘さん達です。娘さん達はカシューナッツ農家の娘や御上さん達で、国道両側の約100m程の範囲にそれぞれが手造りの売店を設け、ご自慢の衣装を着て自家製の小さなパック入りのカシューナッツ菓子を売っています。

 小田原あたりの魚の干物直売店をイメージして下さい。お店の人が干物を片手に、手招きをしてお客を呼び込んでいるのと同じで、カシューナッツを片手に手招きをしてお客を誘います。これだけではスリランカの道端でよく見かける果物や野菜売りと変わらないのですが、カシューナッツ娘の場合は衣装が違います。

 スリランカの女性は肌があらわになるような服装はしないのですが、カシューナッツ娘はかなり大胆な露出度の大きい服装をしています。中には胸の谷間を覗き込めるのではないか思われるような服装をした女性もいます。外国人の目から見ればどうという程度ではありませんが、入国の際に日本の週刊誌を持っているのが見つかれば、ヌード写真を切り取られるか、週刊誌自体を没収される様なお国柄なので、この様な服装はスリランカでは驚異的な事なのです。スリランカ女性としては大胆とも言える格好をしてでも、ガジュガマの女性達は特産品を売って少しでも現金収入を得ようと働いています。

 お客は外国人観光客よりも、スリランカ人の方が多いと思われます。キャンディ詣でのスリランカ人や毎日のようにガジュガマを通る定期バスやトラックの運転手と乗客です。運転手達にはそれぞれお馴染みの娘がいて、軽口を交わしながら値段交渉無しにカシューナッツを購入して素早く立ち去りますが、一族や友人達とバスを仕立ててのキャンディ詣での人達は購入するのに時間が掛かります。

 少しでも長くカシューナッツ娘と話をし、眺めていたい為に長々と値段交渉を繰り返します。この間、バスに残っている人達からは冷やかし声が飛び交います。交渉の挙句に市価の倍以上の高値と知りながら大量に購入している様です。拝観料込みの値段なのでしょうか。普通の乗用車の人達だけでなく、運転手付きの高級外車の後部座席に座っている紳士でさえも、気に入った娘のそばに車を停めさせて同乗の女性の冷ややかな視線を浴びながらもカシューナッツを購入するために車から降りてきます。

 カシューナッツ娘達が商品を売る為に媚びている様に感じられるかもしれませんが、彼女達からはいやらしさは全く感じられません。寧ろ、ライバル達よりも少しでも目立つ格好をして、より多くの特産品を売りたいという逞しさと、あっけらかんとしたお色気が感じられます。

 残念な事に、最近ではカシューナッツ娘の数が減ってきたように感じます。やはり後継者不足なのでしょうか、娘達の年齢も少しずつ上がってきたようです。1990年代には娘さん達が車道の真ん中まで飛び出てきて無理矢理に車を止めていたものです。

 娘さん達の客引きの声、お客との値引き交渉の声、野次馬達の冷やかしの声、その様子を撮影する外国人観光客などが入り乱れて、それはそれは賑やかな光景でした。最近はこれほどの賑わいはありませんが、それでもカシューナッツ娘達は一生懸命にカシューナッツを売っています。スリランカを訪問された際に、キャンディロードを利用する機会がありましたら、是非ともカシューナッツ娘との会話を楽しんで頂きたいと思います。

 キャンディロードだけでなく、各地の道端ではドリアン、マンゴスチン、ランプータンなど旬の果物の売店、シンハラ語でタンビリと呼ばれるキングココナツの果汁の立ち飲み屋、もぐりの濁酒屋などが出現しますので、これらの店を見つけた時には、旬の味と売り子との会話を楽しんで下さい。