ぼくが見て感じたスリランカ紹介11

              【コロンボでもホタルが見られる】



 今回はホタルの話をしようと思います。海外旅行ガイドやテレビの海外紀行番組で紹介されるような、「樹木一面にホタルが集まってあたかもクリスマスツリーに見える」と云うような派手な話ではありません。私の住んでいたコロンボの住宅地周辺にひっそりと生息している、小さなホタルの話です。

 私が住んでいたのはコロンボ7と呼ばれる地域で、シナモンガーデンと呼ばれる事もあります。植民地時代にはこのあたりでシナモンが栽培されていた名残ですが、現在は官庁や文化施設と住宅が混在する地域になっています。スリランカに行った方にはオデールやパラダイスロード等の在留外国人と観光客向けの商業施設、タウンホールや国立博物館等がある地域と言えば判ると思います。

 コロニアルスタイルの立派なお屋敷が突然に壊され、跡地に高級アパートの案内看板が出現するなど開発が進んでいますが、まだまだ各家には花壇や大きな樹があり自然環境は十分に残されています。我が家の庭にある大木にはリスが住み、夕暮れ時には公園で過ごしていたコウモリがこの木の洞に帰って来るといった具合です。

 スリランカに赴任したばかりのある雨上がりの夕方の事です。夕食を待ちながら、ビール片手に庭を眺めていた時に、雨にぬれた葉っぱのあたりに点滅している光を見つけました。どうやらホタルの様です。目を凝らすと、葉っぱのあたりだけでなく芝生の上やそこかしこで夕闇の中に光がぽつりぽつりと浮き上がって見えるではありませんか。スリランカでホタルが見られるなんて、考えた事もなかったので嬉しくなっちゃいました。

 雨上がりの空には、日本の大都市では見ることの出来ない数の星が瞬いています。圧倒される様な星の数と慎ましやかなホタルの光のコントラスト。赴任したばかり時期でもありましたので、また新しい国に来たんだと改めて実感しました。

 出来すぎの話と思われるかもしれませんが、何カ国かに駐在した経験で新しい国に来たと実感するのは、業務上では事務所で現地スタッフと始めて言葉を交わす時、日常生活では新しい家から何気なく見える光景である事が多いです。

 マレーシアではアパートのベランダから見た夜空を縦横に走り、光で雲を浮かび上がらせるほどの大きな稲光でした。シンガポールでは、真夜中でも煌煌と照明が輝き多くの人が働いているコンテナターミナルを見た時に、日本から新しい任地に移ったんだと感じました。

 話が逸れてしまいましたが、ホタルを見たのはこれが初めてだったのではありません。以前の赴任地であったマレーシアでは冒頭に書いたクリスマスツリーの様な樹を観たことがありました。でも、旅行者とは違って現地に駐在する日本人の心情には、このような艶やかなホタルよりはスリランカで観たホタルのようにひっそりとしたホタルのほうが合う様です。

 僕は横浜生まれの横浜育ち、しかも海に近い地域だったので、ホタルは自宅の庭で見る物では無く、どこか遠くまでホタル狩り(都心のホテルでもやっていますけど直ぐに死んじゃうみたいでホタルが可哀相です)に行って見るものだと思い込んでいました。

 スリランカに長く住んでいる方に聞いたところでは、数は減ってきているもののコロンボでは、殆ど一年中見る事が出来るそうです。日本ならば温室の中で育てられている植物が屋外で自然に育っている国で見るホタルって云うのも風情がありますよ。(つい最近聞いた話では、町田には今でも自生のホタルを見る事の出来る地域があるそうです)

 旅行でスリランカに行かれた方が一般家庭に入り込んでホタルを見るのは難しいと思いますので、コロンボで簡単にホタルを見る事の出来る、とっておきの場所を教えましょう。

 コロンボ7にあるアートギャラリー近くのサマーガーデンという屋外レストランで見る事が出来ます。レストランとは云っても堅苦しい店ではないので、ビールとおつまみをオーダーすれば十分。ツアーに参加してスリランカに行かれる方は、夕食を毎回お仕着せのレストランで取られることが多いと思います。自由時間を利用してちょっとだけ冒険してみませんか。

 コロンボは小さな町なので、どこのホテルからでもタクシーを使えば大した時間をかけずに行ける場所だし、旅行者にとっても治安がかなり良い町なので最低限の注意事項を忘れなければ、スリランカの雰囲気を楽しめる店です。この店に関しては別の機会に詳しく書きますが、地元の人が行くビアガーデンだと考えて下さい。飲み屋としても面白い場所なのでホタルに興味がない方にもスリランカ研究の一環として行く事をお薦めします。