ぼくが見て感じたスリランカ紹介15

                               【バス旅行 3          赤岡健一郎


 車内では後部席には若者達が陣取り、中央部には逞しくも優しい奥方達、前部には奥方に頭は上がらないけど陽気で気持ちの良い旦那衆が座ります。僕は唯一の外国人ゲストなのでマンちゃんと一緒に一番前の最上席に並んで座らせてもらいました。前回にも書きましたが最前席は事故の際には一番危ないのでちょっと怖い席です。

 バスが動き始めると直ぐに、後部席では若者達がギターやタプラー(スリランカの打楽器)の演奏にあわせて歌や踊りを始めます。中央部では奥方達が大声でお喋りに花を咲かせながら後部席の演奏にあわせて通路で歌ったり踊ったりしています、その合い間にも前方の旦那達の挙動に目を光らせています。そして前の席では奥方の目を盗んで旦那衆がこっそりと酒宴を始めています。

 スリランカでは一族の絆が非常に強いため、今回のバス旅行に参加した親戚一同は常日頃から顔を合わせては助け合っている関係なのですが、やはり一緒に旅行に出かけるので気分が高揚しているのでしょう。また、何人かの親戚は遠方に住んでいてこの旅行に合わせて帰省しています。久し振りの再会なので、お互いの近況を報告し合っています。皆の浮き浮きとした気持ちが最前列に座っている僕のところまで伝わってきます。

 暫らくすると、後方にいた若者達の中でもお調子者らしい青年が浮かれた調子で僕達のところまで来て後部席で一緒に遊ぼうと誘います。誘いに来たついでなのか、それが本来の目的なのか母親の目を盗んで、父親達からアラック(スリランカの地酒:椰子の花心から造ります、ラム酒のような香りです)を一口飲ませてもらっています。その後は、男女の若者達が入れ替わり立ち替わり誘いに来ては、素早くアラックやビール等を飲んでいきます。皆、母親の目が怖いようです。

 幹事たる者は道順を運転手に指示しなくてはいけない、と思い込んでいるマンちゃんを席に残して僕も後部に席を移して遊びに加わることにしました。でも、スムーズに後方に移れる筈はなく、中央付近で奥方達に捕まって日本や僕個人について根掘り葉掘り訊かれたり、お菓子を振舞われたりでなかなか後方に移れません。後方からは手まねで早く来いという合図がくるのですが、奥方達は離してくれません。奥方達と若者達との間ではシンハラ語で何か言い合っているのですが僕には理解できません。理解してたら、どちらかの言う事を聞かなければならないでしょう。きっと理解できない方が良かったのかもしれませんね。

 路線バスのプロドライバーに道順を教える必要なんて無いのに、交差点ごとに、右だ、左だ、直進だと指示するので、運転手に煩がられていたマンちゃんも、後方の賑やかさに誘われて後方に移ってきました。もっとも、マンちゃんが移った後でも少し酔っ払った旦那衆が運転手にあれやこれや指示するので、運転手には気の毒でした。

 マハラガマから約90kmほどの、ラトナプラ(宝石の産地として有名)の少し先で脇道に入った所にあるお茶畑までの道中ずっと演奏が続き、少しお酒が入って顔色の良くなった旦那衆も奥方に怒られながらも踊りに加わります。

 誰かの知り合いがいる町で、その知り合いに挨拶するというのでわざわざ遠回りをしたり、横道に入って停まったり、挙句の果てには家の場所が判らなくて探したりと、なかなか先に進みません。道端に果物売り等の屋台を見つければ停まって売り子を冷やかしながら車中でのおやつを購入、移動市場が開催されていれば覗くために停まり、誰かが何かを買っています。僕には早く目的地に行って遊べば良いのにと思えるのですが、出発地でバスに乗った時点から、皆で一緒に行動できる事がどうしようもなく楽しくて仕方が無いようです。

知り合いの家を探すのも、全員が一生懸命にあっちだ、こっちだと言い合い、通行人に聞いています。漸く家が見つかれば全員がバスから降りて、初めて会ったというのにまるで旧知の仲のように挨拶を交わします。僕には羨ましいような感覚です。


 主な国道にはドライブイン風の茶店がたくさんあり、トイレ休憩で立ち寄った茶店で、お決まりの甘〜い紅茶とこれもまた甘〜いお菓子を飲み食いしては休憩。僅か100km弱の道のりを4時間もかけて目的地に到着しました。

 お茶畑の入り口にバスを駐車し、皆で手分けして荷物を担いでお茶畑の間を登ると広場の様な場所があります。広場の周りには集会用のステージと管理人事務所のような小屋があるだけで他は一面お茶畑です。休日のせいなのか、シーズンのせいなのか、お茶摘みの人は見あたらず管理人夫婦以外には誰もいません。今日は、お茶畑も広場もマンちゃん一族の貸し切りです。

 お茶畑での様子は次回に書きます。


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