ぼくが見て感じたスリランカ23

シーギリヤのみやげ物売り・前編 
   
                                                赤岡健一郎


  今回の主役はスリランカを代表する観光地として有名なシーギリヤで出会った土産物売りです。シーギリヤはスリランカの北部にある「文化の三角地帯」と呼ばれる地域の中にあり、コロンボからは北へ約165kmのところにあります。              

 アヌラダプーラ、ポロンナルワ、キャンディの3都市を結ぶ「文化の三角地帯」には世界的に有名な仏教遺跡群があります。日本ではあまり知られていませんが、3都市ともに世界遺産に登録されていて、スリランカを訪問する観光客のほとんどが此処を訪れる事を目的としています。

アヌラダプーラには紀元前5世紀にスリランカ最古のシンハラ王朝の都が置かれました。その後、インドからの侵攻によって王朝はこの地域内を南へ北へと遷都を繰り返し、仏教施設も遷都の度に造営されました。最終的には、1815年にイギリスによって最後のシンハラ王朝がキャンディで滅ぼされてしまうのですが、この地域を旅すると約2300年にわたるシンハラ王朝の栄枯盛衰を感じる事ができます。

 シーギリヤも遷都を繰り返す中で、5世紀後半に11年間だけ都が置かれた遺跡です。高さ約180mのシーギリヤロックと呼ばれる切り立った岩山の頂上に王宮が造られ、岩山への登山口にはライオンの姿をした城門があったと伝えられています。現在でも巨大なライオンの左右の爪が残されています。この爪は僕の背丈ぐらいの大きさなので城門全体の大きさは、どれほどだったのでしょうか。僅か11年で遷都された後は仏教修行の場になりましたが、やがて忘れ去られジャングルに飲み込まれてしまいました。再びシーギリヤが発見されたのはイギリス植民地時代の1875年でした。

 現在ではシーギリヤロックを中心に歴史公園として整備されています。僕が土産物売りと出会ったのは公園内の駐車場でした。

 この日は日本から遊びに来た友人夫妻と海外赴任はスリランカが初めてという友人を案内してシーギリヤを訪れました。思えば、僕以外はカメラとガイドブックを手に、暑苦しい服装なので、どこから見ても観光客の風情です。土産物売り達からは、さぞかし上等なカモに見えた事でしょう。車が駐車場への進入路に入った時から目を付けられていたようです。車を停めて扉を開けるや否や、各国の観光地なら何処でも同じ様に、大勢の土産物売りに取り囲まれました。

 前述した様に「文化の三角地帯」はスリランカの北部にあります。有名な観光地ではありますが、政府軍とLTTE(反政府ゲリラ組織)との戦闘地域にも隣接しているために、この地を訪れる観光客も激減しています。そのために土産物売りも生活の為に必死なのでしょう。それぞれが手に土産物を持って、何とか売りつけようと袖を引っ張ったり、前に立って通せんぼをしたりして僕達に迫ってきます。これを無視し、土産物売り達を掻き分ける様にしてシーギリヤロックへと向かいました。

 土産物売り達もだんだんと諦めて、次のカモを待とうと駐車場に戻って行きます。最後まで諦めずに追ってきたのは30代前半の男性一人だけで、彼が今回の主役です。彼のお薦めは木板彫刻で、特に横30cm・縦20cm位の木板に象の彫刻が彫られた物を売りたいようです。でも、お薦めの物にしては雑な彫刻で彼の子供が彫ったのではないかと思われるほどで、いかにも怪しそうな土産物売りです。

 彼を麓に残して僕達は岩山を登り始めました。ライオンの両爪の間を通ると直ぐに岩肌に彫られた急な階段になります。階段を過ぎると今度は鉄製チェーンが張られただけの急斜面を、両手両足を駆使して登ります。中腹まで辿り着くとシーギリヤレディーと呼ばれる壁画があります。5世紀後半に描かれた当時には500体の半裸の女性像があったと伝えられていますが、現在では20体ほどの鮮やかな色彩を保持した美女達が僕達に微笑んでくれます。漸く頂上に辿り着くと1.6ha程の場所に王宮や兵舎・住居の跡、ダンスステージが残されています。王宮等の跡地も素晴らしいのですが。頂上から見る事のできる景色は正に絶景です。周りには視界を遮るものは何もありません、5世紀後半の王様が見た景色とほぼ同じ景色を見る事ができます。

 岩山を降りてからは別ルートを通って駐車場に戻ろうとしたところ、先ほどのみやげ物売りが先回りして笑顔で僕達を待っていました。この人懐っこい笑顔が彼の最大の武器なのでしょう。彼はターゲットを友人夫妻に絞った様です。僕がもう一人の友人と話をしている隙を狙って、笑顔を浮かべながら友人夫妻に何か話し掛けてしまいました。注意する間も無く友人夫妻が思わず目を合わせて話に乗ってしまいました。こうなれば彼の思う壺でしょう。 

お土産売りとの交渉の様子は次回に書く事にします。





              僕が見て感じたスリランカ・目次へ         TOPへ