ぼくが見て感じたスリランカ18

            スリランカの小悪党・寄付金編     赤岡健一郎


 
 2006年9月、「わんりぃ」誌上にスリランカ紹介文の掲載を始めて以来、スリランカ人気質を中心として書いてきました。

 これまでは悪人については積極的に書いた事がありませんが、もちろんスリランカにも世界中のどこの国とも同じ様に、殺人事件や窃盗事件が頻繁に起きています。でも、最近の日本の様に親が子供を、子供が親を、単に人を殺したかったという理由にならない理由で死傷させるといった悲惨な事件はありませんね。スリランカでは、よその国に比べると悪い人よりも良い人の比率が高いような感じが僕はしています。内戦が続いているので、その指導者がスリランカ最大の悪人ではないかと思いますが、ここで取り上げるのは止めましょう。

 今回は、観光客をカモにしている街中の小悪人を紹介しようと思います。昨年の1月号の「コロンボで一日時間があまったら」で紹介した寄付金集めのおじさんです。

 観光客の多いゴールロード界隈を歩いていると、おじさんは怪しげな日本語で話し掛けてきます。英文の身分証明書を見せてくれますが、何を証明しているのかわかりません。日本語が書いてあるノートや、名刺の束を見せて日本人と仲の良い事を強調して一生懸命話かけてきます。ノートには観光客が書いた住所氏名やスリランカの感想が書いてあったりしますが、現地駐在員達によって「この人を信じてはいけません」等の警告が書いてあるページもあります。名刺は相当古い物が多く、擦り切れていたり、黄ばんでいたりします。こんなノートや名刺を見せたら、かえって怪しまれるのではないかと思うのですが、おじさんはノートに書いてある内容は判らないのでしょう、大真面目に1ページ1ページ、1枚1枚見せて、貰った時の話をしてくれます。

大概の場合、おじさんは自分の出身校の校舎改築費用を集めていると言って与太話を切り出します。最初は1000ルピー(約1000円)寄付して欲しいと言いながら、相手の反応を見て寄付金を上下させてきます。観光客の方は会話を始めると相当にしつこく付き纏われるので、寄付金の話が出てきたら無視して逃げた方が無難です。ここから先は、暇をもてあましている駐在員(僕の事です)の話になります。

 おじさんも、相手の雰囲気や服装を見れば観光客か駐在員かの区別がつくと思うのですが、それが出来ないようです。

 折角話し掛けられたのですから、暇つぶしにおじさんの話を聞いてみることにしました。おじさんによれば、自分は退職した公務員で出身校の校長に頼まれてボランティアで寄付金を集めているそうです。学校名を聞いて、僕が○○通りにある学校かと聞き返した時点で僕が観光客ではないと気がつきそうな物ですが、まだ気がつきません。校舎が古くなって雨漏りするとか、床が抜けたとかもっともらしい説明をします。

 スリランカの場合、公立校の校舎等の維持管理は政府が行うので修理の為の寄付金集めは、このような形ではありません。私立校の場合は、もともとお金持ちの子弟しか通わないので有力OBが個人的に寄付をして改築や修理をしてしまうので、やはり街頭で寄付金集めなんて普通はしません。まして、おじさんの言った出身校は有力政治家や財界人などの著名人を輩出している有名校なので有りえない話です。もう少しまともな嘘を言えば良いのにとも思いましたが、からかわれている事に気が付かない様なので、さらに話を進めてみました。

 僕が、とても良い話だから是非とも寄付をしたいと申し出ると、僕の顔色を見ながら恐る恐るという感じで最初の1,000ルピーから10,000ルピーに金額を上げてきました。その金額でも良いと伝えると、良いカモが引っかかったと思ったのでしょう喜色満面になりました。

 次に、寄付金を何時何処で渡すかという話になりました。僕が、大金を寄付するのだから学校を見てみたい、校長先生にも挨拶をして直接寄付金を渡したいと言うと大慌てです。同じ様な事が他の赴任国でもありましたが、途中でからかわれている事に気が付かれて、開き直られて凄まれたり、仲間が集まってきたりで、こちらも冷や汗をかきましたがスリランカでは大違いです。

 まだ気が付かずに、今日は休校で中に入れないとか、校長は不在だとか言い繕い始めました。それでは寄付する事は出来ないと伝えると、気の毒なほど落胆してしまい、暇つぶしにからかったのが申し訳ないほどでした。それでもおじさんは、最後まで気が付かなかったようです。

 その日はそのまま彼とは別れました。その後もゴールロードを車で通る際に、観光客に声をかけている彼の姿を見る事がありました。きっと生活が成り立つぐらいには寄付金を集める事が出来るのでしょう。驚いたのは、数ヵ月たった頃に再び彼から声を掛けられた事です。

 最初の口上は全く同じで暫らく聞いてから、前にも会った事があるのを告げると照れ臭さそうに笑っていました。 道端の茶店に彼を誘って話をしてみました。寄付金の話は全くの嘘でしたが、退職した公務員というのは本当で日本語の他にも数ヶ国語を話せ、各国毎に用意してあるノート等の小道具を見せてくれました。寄付金集めの詐欺なんてしないで他の良い事をすればと忠告しても、ニコニコしているだけです。本当におじさんは小心者だけれども気の良い小悪人ですね。

    
南町田にスリランカ料理の店が出来ましたので紹介します。店名は「ディヤダハラ南町田店」と云います。一昨年と昨年の夢広場でスリランカ料理を出していた店です。夢広場では、限られた料理しか出せませんでしたが、店では多くの種類のスリランカ料理を楽しむ事ができます。場所はスーパーマーケットのカルフール1Fのフードコートにあります。小さな店ですが、南町田に行く機会がありましたら立ち寄ってみて下さい。



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