ぼくが見て感じたスリランカ 20

           スリランカの小悪党・両替屋編     赤岡健一郎


前々回は観光客をカモにしている街中の寄付金集めを紹介ましたが、今回はもぐりの両替屋を紹介しようと思います。

 僕が今回の主役の両替屋と出会ったのは、コロンボの海岸線に沿ったフォート(砦)地区の南側にあるゴールフェイスグリーンと呼ばれる公園でした。この場所は英国の植民地時代に造営され、当時は公園全体が芝生で覆われた広大な緑地で、草競馬やクリケット等を在留英国人が楽しんでいたそうです。現在は、高波による塩害やメンテナンスの悪さから芝生が枯れてしまい部分的にゴールフェイスブラウンの状態です。元の緑地に戻そうと芝生の植栽が進められているので近い将来には、地名に相応しく全面がグリーンになる事でしょう。

 ゴールフェイスグリーンの南端には、1864年に建設された当時の姿そのままにコロニアル様式を保持し、皇太子時代の昭和天皇や各国の著名人も宿泊しているゴールフェイスホテルがあります。このホテルは海岸線に面しているので、ホテルの中庭はインド洋に直接につながっています。この他にもヒルトンやインド系のタージ、インターコンチネンタル、ホリディイン等の外国人観光客がよく利用する高級ホテルがこの地域に集中しています。
又、フォート(砦)地区という名前から判る様に植民地時代にはコロンボを守る為の砦が築かれており、今でもインド洋を睨んで砲台が数門残されています。旧国会議事堂等や歴史的な建造物も周囲に多いためにコロンボ市内の観光スポットの一つになっています。

 この公園には、夕方になると散歩や夕涼みを楽しむ地元民、インド洋に落ちる夕日を見物に来る外国人やスリランカ国内各地からのお上りさんが集まってきます。さらに、これらの人々を目当てにした屋台やお土産屋も集まってきてお祭り騒ぎになります。ところが、日中は強烈な日差しを遮る様な木陰等が全く無いためにスリランカの人達は子供を除いては近寄りません。集まってくるのは、近くのホテルの滞在客とフォート見物の観光客、土産物屋、そしてこれらの外国人観光客を狙って一儲けしようと企む良からぬ人々です。

 カラフルな凧を揚げて客寄せのデモンストレーションをしている凧売りやキャンディー売りに化けた両替屋・寄付金集め等がカモの到着を、首を長くして待っています。観光客がやってくると、この人達の第一声は決まって「ハロー、マイフレンド」です。これは世界中どこの観光地でも共通して「私は悪い人です、騙されたい人は寄ってきなさい」と言っている様なもので、こういう人との丁々発止が大好きな人以外は近寄らない方が賢明です。僕は好きです。

さて、今回の両替屋もこのキーワードを口にして近寄ってきた凧売りでした。この時はいつも会う両替屋がいなかったので初対面の人です。最初は「どこの国から来た?」「日本人か?」「凧を買わないか?」等の常套句から始めて、凧を買う気が無いと判ると、次は僕の持っている時計やMDを売ってくれと言います。それも断ると、いよいよ声をひそめて「マネーチェンジ」と何度も繰り返します。レートを聞くと公定レートよりもかなり率が良いので話に乗ることしました。

此処からが彼との交渉という名の化かし合いです。彼はポケットからゴム輪で纏めた札束を取り出して、僕の目の前で声を挙げながら枚数を数え始めました、仮に100枚とします。そして100枚を数え終わると僕に確認しろと札束を渡して来ました。僕が数えるとやはり100枚ありました。でも、両替屋の目つきが妙に嬉しそうなのと、予め枚数を数えてゴム輪で纏めた札束を芝居がかった声で一枚一枚数えたのが怪しいと思えました。そこで念のために、今度は札束の反対側から数えてみると90枚しかありません。

これはよくあるトリックで半分に畳んだ札を札束の間に挟む手口です。この場合には畳んだ札が5枚挟んであったことになります。僕が10枚足りないと文句を言うと、彼は札束をもう一度ひっくり返して数え直しちゃんと100枚あるぞと主張します。後は堂々巡りで交渉決裂です、彼はシンハラ語で何か捨て台詞を残して、少し離れた場所に移って次のカモを待つ為に凧を揚げ始めました。

このトリックは、この場所でいつも会う両替屋から教えてもらった手口だったので見破る事が出来ました。これを教えてくれた両替屋は、この手口で外国人を騙す悪い両替屋がいるから注意しろと言っていたのですが、この人自身もモグリの善良な(?)両替屋だから可笑しくなります。

「ハロー、マイフレンド」と行って近づいて来る物売りにはくれぐれも気をつけて、よい旅を楽しんで下さい。でも、物売り以外でこの言葉を言って近づいて来る人の中には、付き合ってみると意外に良い人がいたりします。あまり警戒しすぎても友達を作るチャンスを失うかもしれません。

その場の状況や相手の態度を見極めて相手をするのも旅の楽しみですね。  


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