ぼくが見て感じたスリランカ32 ジャフナ珍道中 Z 前回はLTTEチェックポイントの門限に遅れたシンハラ人達が、ゲートの前に集まって相談を始めたところで終わりました。 僕は相談に加わっても仕方が無いので、チェックポイントの周辺をウロウロしながら周囲の様子を眺めたり、遅れて着いた人達の乗ってきた車を見たりしていました。裕福な人も混ざっているようで外国製の高級車が何台か混ざっています。相談に加わっていたシンハラ人達が、僕の方をチラチラ見ながら何か声高に気勢を揚げ始めました。このような状況では碌な事が無いのは過去の経験から判っています、とても悪い予感がしました。 友人のカルナラトネ君とチャミンドラー君が集まっていたシンハラ人達に促されて僕の方に歩いてきます。二人は僕の気質を知っているだけに困ったような顔をしています。そして、遅刻した人を代表してゲートを開けるようにLTTE側と交渉してくれないかと切り出してきました。 外国人だからLTTEも便宜を図ってくれるだろうと云うのです。僕は、前もって判っていたルールを破ったのだからペナルティーを受けるのは当然だとして交渉役を断りました。 シンハラ人達の不安な気持ちは理解できますが、敢えて断った理由は、僕は外国人だと云う事で特権を持っているとは思っていないし(スリランカだけでなく開発途上国で仕事をしている人の中には、外国人だというだけで特権を持っていると勘違いしている人が多くいます。現地の人達もそれを是認しています)、LTTEのキャンプを見たいという気持ちが強かった為でした。二人の友人は、やっぱり断られたかという顔をしてシンハラ人達の処へ戻っていきました。 待っていたシンハラ人達は断られたと聞いて驚いています。僕がLTTEのキャンプに行く事を恐れて外国人の特権を使ってLTTEと交渉をしてくれると考えていた様です。 再びシンハラ人達の議論が始まりました。今度は友人二人と共に身なりの良い数人のシンハラ人がやってきました。外国製の高級車に乗ってきた人なのでしょう。そして、自分は10数年ぶりに移民先のニュージーランドから帰って来た、両親や親戚一同が集まって待っている。友人が入院しているので見舞いに行きたい。重要な商談がある。等々、色々な理由を口にし、口利き料を払ってもいいので自分達の代表として交渉してくれと言い出しました。 ほとんどが出任せなのは判っています。何故かというと、陸路はやっと通行できるようになりましたが、空路はかなり前から民間航空会社によって確保されていました。海外の移民先から帰って来る事が出来るほど成功した人や、重要な商談のある様なビジネスマンは空路を使えば1時間そこそこでコロンボからジャフナに行けます。僕に報酬を払ってもいいと言うぐらいですから、この人達はルールを破っても簡単にお金で解決できると考えている類の人達です。こんな人達の代表なんて絶対に嫌だと思い、再び交渉役になる事を断りました。 遅れてきた人達の車が駐車している場所に近づいてみると、相談に加わらなかった男性やご婦人、子供達の他に臨月間近と思われるほどお腹の大きな妊婦さんがいました。ここまでのガタガタ道をよく我慢してやってきたものだと感心して見ていると、妊婦の旦那さんが僕の視線に気がついたようでぼくの処にやってきました。 お産の為にジャフナの実家に戻る途中だそうで、制限時間は判っていたが道がこんなに悪いとは知らずに車で来てしまい、妊婦さんの体に悪いと思ってスピードをあげられなかったと言うのです。既にLTTEのキャンプに様子を見に行って来たそうで、簡易宿舎には電気もなくベッドは板張りで薄いマットがあるだけだったそうです。自分が悪いのだからペナルティーを受けるのは仕方が無いが妻の体が心配だと言っていました。 先程の人達の為にLTTEと交渉する気にはなれませんが、妊婦さんや子供達の為に交渉してみようと思い始めました。ただし、全員ではなく弱い立場の人だけで先程の人達は当然キャンプ泊まりで構わないと思っていました。 ゲートの脇に立っていた兵士に話し掛けてみましたが英語が通じません。カルナラトネ君に通訳を頼んで、チェックポイントの責任者と話がしたい事を伝えてもらいました。兵士は直ぐに事務所に行って、責任者と思われる人と一緒に戻ってきました。責任者は若い人で30代そこそこに見え、英語が通じました。案ずるより生むが易しです。 交渉などという難しい話にはならず、事情を説明すると直ぐに妊婦と子供がいる家族はゲートを通過して良い事になりました。最初から声高に詰め寄ったり、賄賂を渡そうとしなければシンハラ人が交渉しても同じ結果を得られたと思います。ただし、この先にある赤十字と政府軍チェックポイント双方の責任者の同意を得ることが出来たらという条件付です。 (続 く) 僕が見て感じたスリランカ・目次へ TOPへ |
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