ぼくが見て感じたスリランカ33 ジャフナ珍道中 [ 前回はチェックポイントの責任者と交渉をした結果、妊婦と子供がいる家族はゲートを通過して良い事になったところで終わりました。ただし、この先にある赤十字と政府軍チェックポイント双方の責任者の同意を得ることが出来たらという条件付です。 LTTEの責任者と共に事務所に入ると、さっそく赤十字と政府軍の責任者と電話交渉を始めました。先ず赤十字は全く問題なく同意してくれました。次に政府軍ですが責任者は既に事務所から帰ってしまい、事務所に残っているスタッフには時間外の通行許可を出せる権限が無いそうで、交渉は不成立に終わってしまいました。責任者を捜してもらえないか尋ねましたが、明確な返答はありませんでした。LTTEの責任者はいつも同じ事の繰り返しだと言って直ぐに交渉を諦めてしまいました。 これでLTTEのキャンプで夜を明かす事が確定です。ゲートの前に最後まで残っていた人達も渋々キャンプへ移動を始めました。 LTTE担当者の誘導に従ってゲートから車で数分の距離にあるキャンプに着いてみると、照明は無く真っ暗闇です。広場の周りに簡易宿舎と貯水塔があるのが、弱い月明かりの中にぼんやりと浮かび上がって見えました。キャンプはジャングルに囲まれているようですが暗くてハッキリとは判りません。簡易宿舎に案内されるとLTTE担当者の持つ懐中電灯の小さな明りで、板張りの2段ベッドがあるのが見えました。窓には網戸が無いにも拘わらず蚊帳すらないようで、デング熱やその他の感染が心配になりました。次に貯水塔に案内されました。高さは2〜3mのコンクリート製でシャワー代わりのホースが何本か貯水槽から出ています。トイレは簡易宿舎の裏にあるそうですが、見に行く気にもなりませんでした。 LTTE担当者が施設の説明を終えて事務所に帰ってしまうと、元の真っ暗闇に戻りました。遅刻組の男達は広場の中央に車を集めてヘッドライトの明りの中で何やら相談を始めています。ジャングルの中で危険だから自警団を作ろうという相談のようです。友人二人も参加しています。 アジア各国とも同じ様なものでしょうが、スリランカの人達は何かあると集まってワイワイガヤガヤやるのが大好きです。そして他人の世話を焼く事も、時には親切すぎてお節介だと感じる程大好きです。以前、僕がドライブ中に道に迷って地図を見ていた時にも、周辺に居た人達が自然に集まって来て僕が何処に行きたいのか話す前から、勝手に僕が何処に行きたいのか推測して道案内を始めた人がいました。 僕が地図を示して、今いる場所が何処なのかと手振り身振りで聞いただけでも、回りにいた人達がてんでんバラバラに地図上の適当な場所を指差す始末です。いよいよ僕が行きたい場所の地名を口にすると皆が大興奮です。道に迷っている当の本人である僕をそっちのけにし、集まって来た人達だけで東西南北あらゆる方向を指差して、あっちだこっちだと叫んでいます。 僕の理解する事ができないシンハラ語で道案内を買ってでようと、沢山の人達が各々の意見を伝えようと僕の処にやって来ますが、何を言われているのか全くチンプンカンプンです。この国の人達にとってワイワイガヤガヤは格好の暇つぶしなのでしょうか。この時には英語の話せる三輪車タクシーの運転手さんがいたので、道順を聞いてなんとか目的地に着く事が出来たのですが、この国の人達はワイワイガヤガヤとやっているうちに、時間の経過と共に本来の目的を忘れて議論する事自体を楽しんでしまう傾向にあるようです。 広場の中央でワイワイガヤガヤやっている人達の議論も盛り上がっているようで、何人かの人達が同時に叫んでいます。傍にいると鳥小屋に頭を突っ込んだような騒音です。少し離れた場所では1対1でお互いを指差しあいながら怒鳴りあっている人もいます。恐らく議論が終わるまでにはかなりの時間がかかる事でしょう。もしかすると議論が終わらないうちに明朝になって、ゲートが開く時間が来るのではないかと思ってしまいます。僕の目からみると、広場の中央に集まっている人達は何か困っている事を議論していると言うよりも、これから何をして遊ぼうかと目を輝かせて嬉しそうに相談している歳を食った子供達のように見えました。 いつまでも議論を見ていても仕方が無いので、キャンプの中を探検してみる事にしました。先程案内された簡易宿舎に再び戻ってみると、二段ベッドの足元には蚊取り線香を置くための缶カラが置いてあるのに気がつきました。缶カラの中には燃え滓が残っていましたが、周囲には蚊取り線香自体は見あたりません。前にこの簡易宿舎で夜を明かした人の中に用意の良い人がいたのでしょう。僕達は、ご法度のアルコール類は隠し持って来ていますが蚊取り線香までは思いつきませんでした。今回の遅刻組の中に用意の良い人がいる事を期待してしまいます。ベッドを触ってみると、木の床の上には藁でも入っているらしい薄くて硬いマットが敷かれています。藁の中にはダニでも棲んでいそうな気がします。このベッドで寝るよりは車の中の方が寝心地が良さそうです。 次に貯水塔に行ってみると月明かり中でお母さん達が子供達にシャワーを浴びさせていました。スリランカの人達は本当に水浴が好きで、一日に何回も水浴をします。さすがにコロンボの中心部では見かけることは少ないですが、中心部から一歩足を踏み出せば貯水池や川はもとより側溝のような処でも水がある処では誰かしら水浴をしています。スリランカの人にとっては、寝るのはベッドでなくても寝れますが、水浴無しには寝つきが悪いでしょう。 ここのキャンプにもしも水浴の施設がなかったら不満が爆発していたかもしれません。LTTE側もそこいら辺のポイントは押さえているようで、簡易宿舎のベッドには感心できませんでしたが、水浴施設には感心しました。大人と違って子供達には恐怖心があまり無い様で、水のかけっこをして遊んでいます。お母さん達はここで一晩過ごすのだと覚悟を決めた様子で、既に浴衣に着替えていました。男達よりも腹が据わっているようです。 僕がいつまでも居るとシャワーを浴びるのに邪魔だろうから早々に退散して広場の周囲のジャングルに近づいてみました。鳥の甲高い鳴き声が無気味です。豚だか牛だか判りませんが鳥の鳴き声とは違った鳴き声も聞こえます。泣き声の聞こえた方向を良く見ると家の明りらしい光が見えます。翌朝になって周囲が見えるようになると、ジャングルの向こう側には想像した通り住居があるのが見えました。夜なので判りませんでしたがキャンプは町の側にあったようで、広場で議論をしている男達はジャングルの中のキャンプに連れてこられたと思って怖がっていましたが、実はそんなに怖がらなくてもよかったようです。 キャンプの探検を終えて広場に戻ると、男達のワイワイガヤガヤは続いています。既に時間は9時を過ぎています。僕はお腹が空いてきていたのですが、まさかLTTEのキャンプに1泊するなんて考えてもいなかったので、食べ物は今朝アヌラダプーラで買い込んだお菓子しかありません。ワイワイガヤガヤに付き合っても仕方が無いので、近くに家の光が見えた事は内緒にして車に戻ってお菓子をつまみながら待つ事にしました。 今回でジャフナ珍道中を終わらせるつもりで書き始めたのですが、終わらせる事が出来ませんでした。もう暫らくお付き合い下さい。 (続 く) 僕が見て感じたスリランカ・目次へ TOPへ |
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