ぼくが見て感じたスリランカ34 ジャフナ珍道中 \ 前回はLTTEのキャンプ場で一夜を明かす事になり、シンハラ人の男達は簡易宿舎に囲まれた広場の中央でワイワイガヤガヤと議論を始めたので、僕は議論に加わらずにキャンプの中を探検してから車に戻ったところで終わりました。 僕が議論に加わらなかった理由は幾つかあります。 シンハラ人だけならばシンハラ語だけで話が進みますが、僕が入ると僕はシンハラ語が話せないし、シンハラ人の中には英語が話せない人も居るのでシンハラ語から英語に、そして英語からシンハラ語に通訳する必要が出てきます。只でさえこの人達の議論には時間が掛かるのに、通訳に時間が掛かる事と議論が一端中断する事によって倍以上の時間が掛かるからです。 何故こんなに時間が掛かるかというと、僕に通訳している間にもどんどん議論を進めてくれれば良いのですが、こういう場合にはスリランカの人達は僕をじっと見つめて反応を注視し、僕が何らかの反応をするまでの間は議論を止めてじっと待っています。そして僕の反応が良さそうだと感じると嬉しそうに、反応が悪いと感じるか幾ら待っても反応が無いと感じると落胆するのが手に取る様に判ります。これの繰り返しになるので倍以上の時間が掛かってしまうのです。 それから、外国人が加わると本音ではなくて余所行きの事を言ったり、格好をつけたりして目立ちたがる人が出てきて、議論があらぬ方向に進んで元の話に戻れなくなる事も多々あるからです。さらに、僕はタミール側に立った意見を言ってしまいそうなので袋叩きになる事はないまでも、火に油を注ぐ事になって議論が白熱して収拾がつかなくなって余計に時間が掛かる事になってしまうでしょう。 少しでも早く議論を終わらせて欲しい僕は、車に戻ってスナック菓子をつまみつつ内緒で持ち込んだビールを飲んでシンハラ人達の議論を見ていました。2時間ほど経ち、酔いと眠気が襲ってきた頃になって漸く議論が終わりました。 声を枯らすほど興奮して大声を出し、且つ時間をかけて議論をして出した結論は、自警団を組織する事と手持ちの食料を集めようという事だけでした。そんな事なら2〜3分も話せば分かる事だろうと拍子抜けしてしまいましたが、色々な意見が出て取捨選択した結果なんだろうと思うことにしましょう。何時もと同じようにこんな調子で3時間近く議論を続け、議論自体を楽しんで満足したのでしょう、LTTEキャンプで1泊する事を受け入れられた様子です。 議論が終わると男達は車に戻ってそれぞれがサロンと呼ばれる腰巻のような民族衣装に着替え、上半身は裸でシャワーを浴びに貯水塔の方向に出かけていきます。何は無くとも水浴なのでしょうが折角長時間の議論を経て、自警団を組織し手持ちの食料を集めようと決めたのに誰も行動を起しません。議論で疲れてしまったのでしょうか。それとも一仕事終わったのでシャワーを浴び少しの間だけ休憩をしてから行動を起すのでしょうか、先程までの緊迫した感じは全くありません。 そして、0時を過ぎた頃になって漸く男達が動き始めました。男性全員が自警団として不寝番をするのだそうです。僕は外国人だから寝ていてくれと言われましたが、面白そうなので志願して自警団に入れてもらいました。 でも、自警団とは言っても車に備え付けの工具ぐらいしか武器になる物がありません。一番役に立ちそうなスパナとジャッキアップ用の棒を各自が持ち出してきています。本人達はしごく真面目なのですが、サロンを腰に巻きつけて上半身裸で工具を掲げ持っている姿では様にならない事この上ありません。 既に女性達と子供達は車内や車の陰でぐっすりと寝ています。武装(?)を終えた男達は次に女性達や子供達を起こして車を移動させ、広場の中央に車の頭を外側に向けて円陣を作り始めました。ちょっと大袈裟すぎて、思わず映画で見た幌馬車隊とインディアンの攻防の様子を思い出してしまいました。 円陣を完成させるとバッテリーを保たせるために1台だけヘッドライトを点灯しました。朝まで30分おきに順番に点灯するのだそうです。 そして女性達に食料を出すように言ったのでしょう。当然の如く、無理矢理起された女性陣からは非難の嵐です。スリランカの女性は家庭内では最大権力者なので、男達が議論の末に出した自警団を組織する事と食料を拠出する事に文句をつけ始めています。確かに夜明けまでは4時間ぐらいしかないのに自警団なんて何もする事がないだろうし、万が一にも襲撃されたとしても自衛する術もありません。また、こんな真夜中に食料品を集めても仕方がないと、僕も思いました。 それでも、男達はタミール系住人から襲撃される可能性があるとか、明日になっても開放されるとは限らないので食料品は集めた方が良いなどと一生懸命に説得していますが女性達からは相手にされずに、食料品は全く集まりません。そんな事をしている中にも時間は経過していきます。女性達は再び車内や車の周辺で寝はじめました。自警団の団員達は、何をするでもなくウロウロしているうちに夜が明けようとしています。 (続く) (続 く) 僕が見て感じたスリランカ・目次へ TOPへ |
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