ぼくが見て感じたスリランカ紹介26

                    スリランカ北部における紛争について       赤岡健一郎


 

1月号に載せて頂いた「ジャフナ珍道中」の原稿の中でLTTEについて少し触れましたが、実はこの原稿を書き始めた昨年11月末から本年2月初旬にかけて、スリランカに関わりのある者にとって最も懸念されていたスリランカ北部での政府軍とLTTEとの戦いに大きな変化がありました。

 この機会にわんりぃ会員の皆さんにLTTEについて説明させて頂こうと思います。大変に申し訳ありませんが、「ジャフナ珍道中」の続編は次号から再開させて頂きます。

 先ず、スリランカでは全てのシンハラ人(国民の約73%を占める多数派で仏教徒が多い)とタミール人(同18%の少数派でヒンドゥー教徒が多い)が二手に分かれて人種抗争を行っているのではないか?スリランカ全土(北海道の80%程度の面積)に紛争が拡がっているのか?この様な印象を持たれているかもしれませんが、大部分のシンハラ人とタミール人達はムーア人(約8%でイスラム教徒が多い)をも含めて仲良く暮らしている事、LTTEが全タミール人を代表する唯一の組織ではない事、を頭に入れて頂ければと思います。

 これまでは北部地域の他にコロンボ市内でもLTTEによる官庁施設や軍事施設を狙った大規模な攻撃、要人を狙った人間爆弾による自爆攻撃などが頻繁に行われ、東部海岸地域や南部地域でも散発的なゲリラ攻撃がありました。小規模なテロを除いて最近の主戦場はLTTEが分離独立を求めている北部地域でした。「ジャフナ珍道中」はこの北部地域を休戦中に横断した時の話です。

 LTTEの正式名称はThe Liberation Tigers of Tamil Eelam(タミール・イーラム解放の虎)で、その頭文字をとってLTTEと呼ばれています。LTTEは分離独立を掲げる極過激な反政府勢力で、1980年代初頭から活動を始め最盛期には5万人の兵力を持ったと言われていますが、2月初旬のスリランカ政府の発表では残存兵力は僅か2千人とされています。

 タミール人側の立場とシンハラ人側の立場から考えるのとでは異なった見解になるので書くのを躊躇するところではありますが、国内紛争の起きた背景についても簡単な説明をしておきましょう。

 タミール側に独立運動が持ち上がった理由の一つには、競争をあまり好まないノンビリしたシンハラ人に比べて、後からスリランカに来たタミール人の方がシンハラ人に追いつくために猛烈に勉強し、更に印僑と呼ばれるほど商才があった事が挙げられています。


              
     *スリランカ北部及び東部の大部分が含まれた、LTTEが要求する領土の模型。
                    スリランカ北部の各所に敷設されている。



 英国からの独立後は医者や弁護士などをタミール系が占めたり、ビジネス界でもタミール系の方が成功者や裕福な人が多かったりしたので、アジア各国である中国系やタミール系住民への苛めと同様の事がスリランカでも起こりました。一時期はシンハラ人によるタミール人狩りが公然と行われ、1970〜80年代にはかなりの数のタミール人が虐殺されたと云われています。

 他にも、タミール人は英国植民地時代にプランテーションの労働者としてインドから強制的に連れてこられて、英国人に使われていたシンハラ人現場監督から虐げられていた積年の恨みが爆発したという説、ジャフナ珍道中―1に書いたジャフナ王国の領土はもともとはタミール人の領土なので返して貰うだけという説、宗教上の問題という説等があります。もちろん、シンハラ人側にも紛争に導かれた筋の通った理由が存在します。印僑式の商売がシンハラ人の商売に合わない、同じスリランカ国民なのに国土を分割しようと企てる事は容認できない等です。

 この様な背景のもとに紛争が続いてきたのですが、冒頭にも書きました様に最近になって大きな変化がありました。2月6日の政府軍の発表によれば、スリランカ北部にあるLTTE支配地域の首都とも呼べるキリノッチが1月初旬に制圧され、2月初旬には軍事上の重要拠点であったムラティブが制圧されました。LTTEの残存兵力約2000人は、地域の住人約25万人を「人間の盾」として人質に取りジャングルに潜り込んで、抵抗を続けています。人質とされている住人の大多数はタミール人なので、LTTEはタミール人社会からも浮いた存在になっています。

 外国人の立場から見て、一方が正しく、もう一方が悪いと言うのは難しすぎることです。僕がどちらかが正しいと言ってしまうと、それが一人歩きしてしまいそうなので、興味を持たれた方には勉強して頂いて独自に判断してもらうのが良いと思いますし、この問題はスリランカ人によってしか解決できないと考えています。

 シンハラ系の人達ももともとはインドから来た人達で、タミール系の人達は少し遅れてインドから来た人だと考えれば、兄弟喧嘩のようなものだとも考えられます。しかし、どんな理由があるにせよ戦争は愚かな行為です。数千年の間に歪んで硬く絡まってしまった感情の行き違いを早く解き放してもらいたいと切に願っています。


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