ぼくが見て感じたスリランカ紹29 ジャフナ珍道中 W 今回からいよいよLTTE(タミール・イーラム解放の虎/the liberation tigers of Tamil Eelam)の支配地域を走破する事になります。 チェックポイントでLTTEの士官から言い渡された、支配地域内を走行する上での注意事項の主な物は次の通りです。 1)地雷処理が終わっていない地域があるので道路外に立ち入ってはいけない、立ち入って発生した被害に責任を負わない。 2)速度制限の40kmを厳守する。 3)LTTE兵士や建物等の写真を撮ってはいけない。 4)監視員が配置されているので違反行為にたいしては罰金又は拘束を含めて厳しく対処する。 これらの注意事項の中で一番困ったのが速度制限の厳守です。 バンニのチェックポイントを通過した後は国道9号線をまっしぐらにジャフナに向ったのですが、道路保守が長期間されていなかった事と、トーチカや塹壕の跡、地雷や砲撃によって出来たと思われる深い穴などに邪魔されてスピードを出す事ができません。 穴だらけのガタガタ道をものともせずに車高の高い4WDの車が制限速度ぎりぎりでふっ飛ばしているのを横目に、僕達の乗っていた車は車高の低いセダンタイプの上に2WDだったために、障害物や穴を避けて右へ左へと迂回運転を余儀なくされ、制限速度の半分もスピードを出す事ができません。先程のチェックポイントで荷物を全部降ろしていたトラック、すし詰めのお客を乗せたバスにすら追い越しされる始末です。 少しでも道路コンディションが良い場所で遅れを取り戻したいのですが、この様な場所には待っていましたとばかりに道端の木陰で銃を持ったLTTEの監視員が目を光らせています。35kmの平均速度を保たなくては午後5時までに150km先のジャフナ側のパライのチェックポイントを通過できないというのに、全く距離を稼ぐ事ができません。 単純に計算すればパライまで辿り着けない事など判りそうな物なのに、相棒のスリランカ人二人はお気楽です。僕の心配など笑い飛ばしてしまいます。いざとなれば袖の下さえ払えばチェックポイントは通過できると考えているようです。 LTTEの支配地域とされる北部地域はドライゾーンと呼ばれ、水不足のためにもともと農作には適さない地域でした。かろうじて紛争の前には幹線道路沿いに灌漑施設が整備された農地が広がっていたそうですが、その元農地が今は危険な存在になっています。LTTEと政府軍の双方が、農地に敷設した地雷がそのままになっているからです。 右写真説明:道路に設置された警告の看板 LTTE支配地域の道路ではユニセフとNGOによって地雷 撤去作業が行われている。写真の様な警告板が数km毎 に設置されていて最近まで戦場であった緊迫感がある ガタガタ道をしばらく走ると突然に道路が綺麗に舗装されたばかりの地区が現われました。舗装道路とは対照的に道路の両側には以前は農地だったと思われる荒野が広がっています。遮蔽物は何も無いのでLTTEの監視員の姿はありません。距離を稼ぐチャンスだとばかりにフルスピードで飛ばしていると、道路の両側に看板が立っているのに気がつきました。車を停めて読んでみるとユニセフや各国のNGOによって掲げられた警告のための看板でした。 この看板によって、チェックポイントで注意された地雷処理が終わっていない地域に入った事に気付かされました。それぞれの看板には表現は違いますが、「道路の両側には地雷が埋設されている。手足や命が惜しいならば立ち入ってはいけない」という主旨の注意事項が書かれています。 別の場所では道路から1mほど離れた場所に黄色いテープに囲われただけの発掘途中の地雷が剥き出しのまま置かれていました。恐らくは火薬と雷管を抜き取って警告の意味で置かれていると思いますが、手の届く場所に爆発するかもしれない本物の地雷が置かれているのに驚きました。道路から離れた場所には、そこかしこに黄色いテープで囲われた剥き出しの地雷があるではありませんか、恐らくこれらの地雷はまだ生きているのでしょう。実際に処理作業に携わっている人を見る事は出来ませんでしたが、目の前には初めて見る地雷処理現場がありました。(写真 右下) これまで、NGOの報告会や様々なメディアを通じて世界中で未処理の地雷によって子供達を含めて数多くの人達が命を落としたり、手足を失っている事に憤りを感じていました。今、僕の目の前にその元凶が在ります。たとえ紛争が終わっても全ての地雷が除去された事が確認出来るまでは、この土地は農地として人々を潤す事が出来ない事が肌身に伝わってきます。この地区の道路が舗装されていたのは、道路上だけが安全地帯だと云う事と舗装道路から外れたら命の保証がないという事を象徴していました、生死の差は僅か1mです。 ひょんな事から物見遊山でジャフナに行く事になりましたが、LTTEのチェックポイントでの経験だけでなく、道路上のトーチカや塹壕の跡、道路沿いに配備されているLTTEの兵士達、そして埋設されている地雷を間近に見た事によって、遠い所の漠然とした存在であった紛争がひしひしと身近に感じられる様になってきました。僕はこの時、休戦中とはいえパワーバランスがひとたび崩れれば、今すぐにでも戦闘が再開可能な状況にある戦場にいたのでした。(続く) 僕が見て感じたスリランカ・目次へ TOPへ |
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