ぼくが見て感じたスリランカ44

スリランカの世界遺産 Y  ダンブーラの石窟寺院


 前回は世界遺産シリーズを休ませていただき、川上村への旅行の話をさせていただきました。今回は世界遺産シリーズに戻って、10月号でお約束したダンブーラの石窟寺院を紹介します。

 ダンブーラは前回紹介したポロンナルワから直線距離で約40Kmですが、真っ直ぐ行ける道路は無いので一端ハバラナまで戻って国道6号線経由で約60Kmほど約2時間の旅になります。キャンディとアヌラーダプラを結ぶ国道9号線と、コロンボからクルネーガラやハバラナを通ってトリンコマリーを結ぶ国道6号線が交差する地点にダンブーラの町があります。

 ダンブーラの町は他の町と同様に旧市街地と新市街地に分かれています。旧市街地は石窟寺院を中心にしてツーリストの為のゲストハウスと住人の為の雑貨店があるだけの静かな町なのに対して、新市街地にはバスターミナルや銀行、商店街、地域総合病院があるだけでなく、地域振興の為の市場(Dedicated Economic Center)があって農作物の集積場になっているために早朝からトラックの出入りが激しく、一日中結構な賑わいをみせています。

 市場の仲買人組合代表のマンガラ氏は2002年に視察の為に日本を訪れた際にわざわざ町田まで足を延ばしてくれた友人で、僕がスリランカを訪問する際にはダンブーラまで行って彼の自宅で飲み明かします。その所為で、ダンブーラは一番多く訪れたのに、世界遺産の石窟寺院にはたった2回しか行った事がありません。

 ダンブーラの石窟寺院の歴史は紀元前1世紀に始まります。この石窟寺院はこれまで紹介してきた世界遺産とは違ってシンハラ王朝の都になった事はありません。最初のシンハラ王朝であるアヌラーダプラ王朝から、最後の王朝となるキャンディ王朝までの約2000年間に亘って、各王朝が第1石窟から第4石窟までを建造し、前王朝の建造物を修復拡張した結果スリランカ最大の石窟寺院となりました。

 一番新しい第5石窟は英国支配下の1915年に建造されました。英国の植民地政策では信仰の自由は保証されていたようです。尚、第1石窟と第2石窟にある壁画はポロンナルワ王朝とキャンディ王朝時代に大規模な修復が行われたと言われていて、現在の壁画が建造当時の物かは定かではありません。

 第1石窟にはこの石窟寺院で最大の仏像である長さ約14mの涅槃像が祀られています。紀元前1世紀にインドのタミール軍の侵攻によってアヌラーダプラから逃れた王がダンブーラの岩山の石窟に身を潜めて反撃の機会を待ち、後にタミール軍を打ち負かしてアヌラーダプラを奪い返せた事を感謝して石窟寺院を寄進したと伝えられています。

 第2石窟は最大の石窟で56体の仏像と石面全体に描かれた壁画があります。第2石窟の中央部天井の割れ目からは雫が落ちて、真下の床に置かれた壺に溜められ聖水とされています。ダンブーラは「水の湧く岩」とう意味で第2石窟がこの寺院の名前の由来になっています。第3石窟は18世紀後半にキャンディ王朝によって造られ、62体の仏像が納められています。第4石窟もキャンディ王朝の末期に造られました。

 第4石窟に纏わる話として、約10年ほど前にヨーロッパ某国の女性が坐像に上って手の平の上に座り、坐像と同じ様な姿勢で写真を撮ったという事件がありました。仏教徒にとっては衝撃的な出来事で、この後は暫らくの間は石窟内での写真撮影が禁止されていましたが、現在は撮影が可能になりました。第5石窟は前述したように1915年に建造された新しい石窟で、黄金の涅槃仏とキングコブラに守られた仏像が有名です。

 石窟に入ると少しひんやりとした空気と、張り詰めた緊張感がありました。これはスリランカ人参拝者が、静かにそして厳かに一途に祈りを捧げている姿や歳月の重みを感じさせる石仏に圧倒されたからだと思います。観光気分でやってきた僕も友人たちも、息を潜めるような圧迫感がありました。

 ダンブーラは石窟寺院で有名ですが、各国からの駐在員にとってはシンハラニューイヤー休暇、クリスマス休暇、僕たち日本人にとってはお正月休暇を過ごす場としても最適です。ダンブーラ郊外のカンダラマには、スリランカを代表する建築家であるジェフリーバウワーが設計した、スリランカの雰囲気を取り入れた外国人好みのリゾートホテルを含めて多くの宿泊施設があり、シーギリヤにも近い事から駐在員だけでなく外国からの観光客も集まってきます。

 カンダラマ湖の周囲にはジャングルが広がっていて野生の象や鳥などが水遊びに来る姿がみられます。各ホテルからのジャングル探検ツアーズも多く、周辺の世界遺産を見物するなどして、駐在員たちが日頃のハードワークからリラックスできる場所の一箇所です。LTTEとの紛争が盛んな時にも、最前線から十数キロしか離れていないにも拘わらず、僕を含めて多くの駐在員が集まっていました。次回はキャンディを紹介します。(続く)                      


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