ぼくが見て感じたスリランカ53

デヒワラ動物園にて


 今回はコロンボ中心部から約10kmほどの場所にあるデヒワラ動物園の話をしましょう。

 パンフレットによれば、総面積は約17万㎡ありアジアで最大規模とされています。ここにはスリランカに生息する86種の哺乳類、427種の鳥類、無数の爬虫類のほとんどが集められているだけでなく、スリランカ固有の動物と交換で集められた世界各国の動物を含めて2000種以上の動物が飼育・展示されているそうです。

 上野動物園でも500種と言いますからデヒワラ動物園での種類の多さが判ります。よく言えば、あるがままの自然を生かして動物達をのびのびと飼育・展示しているのでしょうが、広大な敷地をまだまだ活かし切ってはいないようです。動物園が大好きな僕としてはもう少し何とかならないかと感じます。これまでの赴任地だったマレーシアのクアラルンプールやシンガポールの動物園に比べるとやや見劣りがしますが、ここは伸びしろが沢山あって将来が楽しみと考える事にしましょうか。

 平日も、主として遠足に来ている小・中学生たちで結構混雑していますが、しかし、土・日曜日や休日ともなると恐ろしい程の混雑になります。海外からの観光客の姿は少なく、ほとんどがスリランカ人の家族連れや友人グループ、恋人同士のカップルです。

 コロンボ周辺には家族連れ等で出かける事の出来る娯楽施設は此処しかありません。博物館や美術館もあり外国人観光客には人気がありますが、スリランカ人にはあまり人気がないようです。コロンボ中心地にあるバスターミナルや鉄道のデヒワラ駅からバスでやって来る人、バス停から歩いて来る人達をクラクションを鳴らし続けて掻き分けながら三輪タクシーでやって来る人、運転手付きの自家用車でやって来る人などで年末の上野のアメ横のような雰囲気です。開園時間の8時30分には入場券売り場には長蛇の列ができ窓口に辿り着くだけでも大変な騒ぎです。

 園内に入って各種動物の檻や水族館を一通り見終わると、この動物園の最大の呼び物である午後4時30分から始まる「象のショー」を良い席で見るために、場所取り合戦がはじまります。2~3時間も前から観客が集まり開演の時間を待ちます。日本だと辛抱強く待つという表現になるかと思いますが、スリランカでは直径20mぐらいの円形のステージを囲んで、遅めの昼食を食べたり、食後の午睡をしたり、お喋りを楽しんだりしながら、待つ事自体を楽しんでいる様に見受けられます。

 子供達も大人達もワクワクしながら開演時間を待っています。僕を動物園に連れて来てくれた事務所のスタッフは何度も来た事があるそうで、待っている間にショーの開始から終了までを事細かに説明してくれました。なんともお節介な説明ですが、これがスリランカ流のホスピタリティー(おもてなし)なんでしょうかね。

 待つ事暫し、開演の時間です。人間が手をつなぐように、最初の象のシッポを2頭目の象の鼻が掴み、2頭目のシッポを3頭目の鼻が摑むといった具合に5~6頭の象が手ならぬシッポと鼻をつないでの入場行進です。そのままの隊形で、最後尾の象のシッポを先頭の象が鼻で摑み、円形のステージを結構な速さでクルクル廻ってショーの開始です。

 正確な順番は忘れてしまいましたが、小さな台に身を竦めるようにして乗ったり、片足立ちをしたり、地面に寝ている象使いを踏むマネをしたり、口でくわえるマネをしたり、楽器の演奏をしたりと事前に聞いていた芸を披露してくれました。事前に聞いていたにしても、まさしく聞くと見るのは大違いです。象達のユーモラスな芸に大笑いでした。

 しかし、もっと面白かったのは象の芸を見ているスリランカ人観客の反応です。象の入場行進が始まっただけで大興奮です。地面に寝ている象使いを踏んだり口でくわえるマネをする時には、何でそんなに真剣になれるのかと思うほど、観客皆が固唾を飲み、目を見張って食い入るように見つめています。芸が終わり、象使いが立ち上がって怪我をしなかったとばかりに手を振ると、皆が緊張をほどいて拍手喝采とともに安堵の表情を浮かべていました。象達が楽器を出鱈目にズンチャカズンチャカするだけでも大笑いです。よおく周囲の観客を見てみると子供達よりも大人、特に男性客の方が真剣に見て、興奮していました。象使いが踏まれそうになる時には正視できない様子で目を手で覆っている男性もいました。僕は檻の中の動物や象のショーを見るのも楽しかったけれど、スリランカ人を観察する方が面白かったです。きっと、檻のなかの動物達もスリランカ人のオジサン達や変な日本人を観察していたに違いありません。

 象のショーが終わると動物園も閉園時間になり、皆が一斉に家路に着くので朝と同じ混雑と喧噪に突入します。外に出ると三輪タクシーの運転手達が客を呼び込む賑やかな叫び声が響き、バス停に向う人達も今日の思い出話でもしているのでしょうか、興奮醒めやらぬ様子で声高に話をしていました。





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