ぼくが見て感じたスリランカ48

スリランカのお酒

 今回はスリランカのお酒にまつわる話をしましょう。

 スリランカの人口の約70%が仏教徒、約10%がヒンドゥー教徒、約9%がイスラム教徒で残りの約11%がキリスト教徒です。仏教、ヒンドゥー教、イスラム教の各宗派ともに飲酒を認めていません。唯一キリスト教だけが飲酒を禁じていないのですが、この割合に捉われずに多くのスリランカ人達がお酒を楽しんでいます。伝統的な椰子酒とアラックを始めとして、最近ではワインやコニャックまで造られています。もちろん素晴らしく美味しいビールもあります。カシップと呼ばれる密造酒も密かに飲まれているようですが、味に当たり外れが大きい事と、健康を害する成分が含まれている恐れがあるので避けた方が無難でしょう。

 スリランカのお酒で先ず挙げられるのは、椰子の雄花から採取された樹液を発酵させて出来るラーと呼ばれる椰子酒と、更にラーを蒸留して出来るアラックです。

 ラーの原料になる椰子には3種類あります。先ず主にジャフナを中心にスリランカ北部で採れるパルミラ椰子、2008年から2009年に渡って紹介したジャフナ珍道中で、LTTEの支配地内でモグリのドブロク屋で飲んでいてLTTEのキャンプに泊まる破目になつた原因のラーがこれです。

 プラスチックの大きなバケツから小さな柄杓でコップに注がれたラーには小さな虫やら花片やら色々な物が浮いていました。ラーの表面に大きく息を吹きかけてゴミをコップの片側に寄せ、最初の一杯は目を瞑って一気に飲み干しました。

 ゴミを取り除いてから飲めば良いと思われるかもしれませんが、現地の人がこうして飲んでいたので真似をしました。地元の習慣に従うのは仲良くなれる早道です。氷の1個も入れて少し冷やせば更に美味しくなると思うのですが、一杯飲んでしまえば生ぬるいラーでも酒飲みにとっては酒は酒です。多分アルコール度数は5%以下だと思いますがモグリなので計測した事なんて無いのでしょう。聞いても判らないし、誰も気にしていない様です。確かなのは薄くても沢山のめば確実に酔っ払うということです。乳酸飲料の様な軽い口当たりが結構いけるので沢山飲めます。その結果としてドブロク屋に居合わせた客と時間を忘れて話し込んでしまい、LTTE支配地を通過しなくてはいけない制限時間を超過してしまいました。

 2番目に、キャンディを中心とした中部高原地帯ではクジャクヤシからラーが造られています。椰子林よりも茶畑の方が多い土地柄なのでクジャクヤシの本数は少なく家庭内で消費する程度の量しか造られていません。時たま、少量のクジャクヤシのラーが出回るそうです。後述しますが中部高原はスリランカのビールの一大産地なので中部高原地帯では美味しい生ビールばかり飲んでいて、クジャクヤシのラーを味わうための努力をしませんでした。他の地域のラーと味比べが出来ない事が、今となっては悔やまれます。

 3番目に、コロンボからゴール・マータラ付近までの西部海岸ではココナツ椰子からラーが造られています。
 商用でコロンボ〜ゴール間は月に何度も行き来をしていたので、国道2号線(通称ゴールロード)沿いの多くの家には椰子の木が植えられていて、軒先に大きな樽が置かれてあるのは見て知っていました。赴任当初は、椰子から造る酒がある事自体を知らなかったし、家の前に無造作に置いてある樽に酒が入っているなんて考えてもいませんでしたから、牛乳でも入っているのだろうと勝手に思っていました。ある日、ゴールに向って走っている時に運転手のウダヤ君に、あの樽は何だと聞いてみました。返答はラーと云う椰子から造るお酒が入っていて、ラーはアラックという酒の原料になる。外に樽を出しておけばアラックの製造業者が定期的に樽を引き取って行くのだ、と言うではありませんか。

 売り物なのか、どこかで飲めるのかと質問すると、帰り道で捜してくれる事になりました。ちょっとした集落にはたいていラーを飲ませる店があるそうですが、僕が民家で出来たてのラーが飲みたいと希望したので、ウダヤ君が何軒かの民家と交渉してくれ、漸く一軒の民家に招いて貰う事ができました。部屋では中年の御夫婦と子供達が出迎えてくれ、テーブル上には何かの空き瓶に入れられた、透明感のある乳白色をしたラーと、おつまみの辛いピーナッツが置かれていました。この時が初めてのラー体験です。

 冷えてはいませんでしたが、カルピスの様な乳酸飲料の香りに酸味を効かせた味で、まだ十分に発酵していないそうで少し生臭い感じがしたのを覚えています。今までに飲んだ事の無い香りのお酒でした。アルコール度数は高くはありませんでしたが、1本の空き瓶に入れられたラーを飲み終わる頃には良い按配になっていました。

 ラーを飲んだ後に、裏庭で椰子の取り方を見せてくれました。何軒かの民家の裏庭が一つに成って共同の椰子林になっていました。驚いたのは、各椰子の頂上付近に太いロープを張り渡して、綱渡りの様にして隣りの椰子に移って行く事です。やはり1本の椰子の収穫を終わらせて、一端下に降りてから隣りの椰子に登り直すのは面倒なんでしょうね。この民家にはゴールからの帰り道に何度も寄せてもらってラーを飲ませてもらいました。


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