ぼくが見て感じたスリランカ紹介62     スリランカ人の物差し・そのV



 日本とスリランカで一番大きな違いは宗教・信仰でしょうか。スリランカでは信仰と日常生活が非常に密接です。
 僕自身は檀家になっているのは仏教、でも結婚式は神前、クリスマスは大騒ぎ、ハローウィンや他の宗教行事も訳もわからすに便乗して楽しむという口です。

 スリランカに住んでみて、宗教に対する感覚の違いにビックリしました。この感覚の違いが、物差しの違いのオオモトのようです。前任地のイスラム教を主とするマレーシア、様々な宗教が目立たずに共存するシンガポールに比べても大違いです。

 先ずは赴任するために初めてコロンボ国際空港(現在の名称はバンダーラナーヤカ国際空港)に降り立ち、コロンボ市内までの約35Kmの道のりを迎えに来ていた同僚の車で走った時に、沿道にある宗教関係の施設の多さに驚き、僕のスリランカに対する印象が変わりました。

 日本からのフライトは通常真夜中に空港に着きます。初めての国なので興味津々で車窓の外を見ていました。空港からコロンボまでの道路にはほとんど照明がありません。真っ暗な中を車のヘッドライトの光を頼りに走っていると、数百メートルおきというより交差点毎にライトアップされた仏像や法輪が現れてきます。

 仏教関係だけではありません。イエスキリスト像やマリア像、キリスト教の殉教者の像も数多くライトアップされています。さらにヒンドゥー教のものと思われる神様や人間や動物が絡み合った様な像も現れてきます。これらの像は地元の篤志家や宗教グループによって建造され寄付された物だそうです。


 面白いのは、これらの像の周辺界隈にはライトアップよりも薄暗い電気をつけた屋台の様な店があります。真夜中にも関わらず結構な人影があります。何の用があるのでしょうか、夜食かお酒でも飲んでいるのでしょうかね。この他には野良牛が徘徊しているのにも驚きました。真っ暗な闇夜から目がギラッと光って車に向かって来るのですよ。この真夜中の野良牛が交通事故の原因に多くなります。新聞紙上には、車は大破したにも関わらず牛はピンピンしているなんて記事はよく載っています。

 僕が駐在していたのはスリランカが内戦状態の時期でしたので、空港からコロンボに入るのには恐らく何度か検問所を通らないといけないだろうと考えていました。実際に何度も検問を受けました。真っ直ぐな眼差しで銃を構えた兵士から、車から降りるように言われ、パスポートのチェックと口頭の質問を受けました。何も怯える事は無いのですが、それまでの経験では銃を前にした事がなかったので結構緊張しました。

 しかし、そんな緊張続きの道中で思いがけなかったのは、空港を出てしばらく進んだところにあった、大きな円形の交差点の真ん中にライトアップされた巨大な仏像でした。内戦状態の国だと思っていたのに、その緊張感を忘れさせる何とも大らかな表情をした仏像です。これらの仏像やキリスト像等を見つける度に緊張感が薄れていきました。その後何度も空港までの道路を走りましたが、日中にこれらの像を見ると車の煤塵や埃で薄汚れていましたがどれもとても良い表情をしていました。やはり、最初に見た時の印象が強く残っています。下方向からのライトアップが効果的だったのですね。

 平日はコロンボで仕事をして、週末には地方にある家に帰るという生活をしているスリランカ人の友人が何人かいました。彼らに誘われて週末にそれぞれ違った地方にある家に行った事があります。何故か仏教徒ばかりだったので、他の宗徒の方の地方での生活は経験出来ませんでしたが、仏教徒の週末の生活はこんな具合です。
 各家に共通しているのは家の内外にたくさんの祠がある事です。各祠には色々な事を担当している神様が宿っているそうです。例えば、井戸の傍には水の神様、台所の隅には火の神様等です。朝早く家人の誰かが庭に生えている樹木から花を採って、それぞれの祠にオイルランプの燈明と共に花をお供えします。大人も子供も起きると先ずは各神様にお祈りを捧げるために家の内外を歩き回ります。
 神様にも格があるようで、祀られている場所を左右から順番に回るのでは無く、行きつ戻りつしながら祠の格に従ってお祈りを捧げて行きます。僕も友人と一緒に何の神様か説明を聞きながら、結構な時間をかけてお祈りを捧げて家の内外を一周させてもらいました。

 犬や鳥の鳴き声、猿や他の動物の鳴き声を聞きながらの朝の参拝は気持ちの良いものです。参拝が終わると漸く家族そろっての食事が始まります。

 ぼくが訪れるのはいつも週末なので、子供のいる家庭では食事は短時間ですませ、子供を近所のお寺で行われる日曜学校に送り出す準備を始めます。男の子も女の子も真っ白な服を着て行きます。平日の学校と違って仏教に関する色々な事柄を学ぶのだそうです。何を学ぶかは次回でお話しします。(次号に続く)(続く)    


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