ぼくが見て感じたスリランカ紹介72      

地区対抗マラソン大会

   コロンボから国道4号線を100kmほど南下すると、宝石の町として有名なラトゥナプラに着きます。今回の題材である地区対抗マラソン大会は、ラトゥナプラより少しコロンボ寄りの国道沿線で開催されていました。

 ラトゥナプラの先にダム工事現場があったので、この辺りの道は月に何度も通る、いわゆる通い慣れた道でした。現場での打ち合わせも終わり、あとはコロンボに帰るだけです。車窓から見える景色も見慣れた物で大して注意も払わずに、この日も運転手のウダヤ君と四方山話に花を咲かせていました。ラトゥナプラを過ぎた辺りで、ふと外に視線を送るといつもと様子が少し違っています。いつもならば、バス停以外の場所で人だかりがある事は無いのですが、この日は交差点や商店の前等そこかしこに人だかりが出来ています。ウダヤ君に聞いても何だか判らない様子です。

 しばらく車を走らせると、前方に人だかりがユックリと動いているのが見えてきました。それも片側車線いっぱいに広がって、車の進行を妨げるほどの人数です。ここでウダヤ君には何が起きているのか判ったようです。あれは地区対抗のマラソンか自転車レースだろうと教えてくれました。また、しばらく車を走らせると、この動いている人だかりに追いつきました。ウダヤ君にゆっくりと追い抜くように言って、僕はこの人だかりを観察してみました。

 人だかりの中心には襷のような布を肩から掛けた、ランニングウェアの男性が走っているのが見えたので、マラソン大会のようです。周りの人達も襷と同じ色の鉢巻のような物を頭に巻いています。ただ、走っている男性と、周りにいる人達の雰囲気が全く違って見えます。走っている男性はスタミナ切れの様子で、足元がよろけて今にも転びそうです。これに比べると周りの人達は元気一杯で、手を振り回してピョンピョンと踊りながら走っているように見えます。これはどこかで見た事のある光景だと考えたら、ねぶた祭りのハネトそのものでした。おそらくランナーを叱咤激励しているのでしょう。皆が口々に囃し立て、鐘を鳴らしている音までが聞こえてきました。

 この人だかりを追い越すと、更に前方に別の人だかりが見えてきました。前の人だかりほどには人の数は多くありません。ゆっくりと追い抜きながら観察してみると、先ほどのランナーは中年男性でしたが、今度のランナーは中学生ぐらいにしか見えません。さきほどのランナーはランニングウェアを着ていましたが、今度の少年はどう見ても普通のTシャツに半ズボン姿です。襷を掛けているので、この少年が選手なのが判りました。ウダヤ君に聞いてみると、地区対抗マラソンだけでなく、色々な地区対抗スポーツでは年齢には関係なく一番優秀な選手が地区を代表して出場するのだそうです。このランナーも前のランナーと同様に、相当にバテテいるようです。周りの人達が叱咤激励している様子は同じでしたが、こちらではランナーの頭から水をジャバジャバとかけているのが見えました。ランナーに比べると、周りの人達が元気な理由をウダヤ君に聞いてみました。地区の人達が全コースを分けて応援するのだそうで、そのうちの何人かは全コースを伴走してしまうそうです。

 最初に見た交差点や商店の前の人だかりは、一緒には走らないまでも、自分達の地区のランナーを応援するために待っていて、選手と伴走している人達の飲料水等の補給処を兼ねている様子です。自分達の地区の人だかりが遠くに見えてくると、「早く来い」とでも叫んでいるのでしょうか。皆が大声で声援を送り、手拍子を打っていました。

 次の人だかりの中のTシャツのランナーはもっと子供っぽく見えましたが、こちらはまだスタミナが残っているようで元気に走っています。伴走の人達の方が遅れ気味で追いかけていました。沿道から誰かがコップの水を渡しているのが見えます。次の人だかりでは、ランナーが道路に座り込んでしまい、伴走者達が心配そうに取り囲んでいるのが見えました。

 更に何組かの人だかりを追い抜くと、ゴールらしき場所に着きました。まだ、1位のランナーは到着していないようです。たくさんの人達が集まって、道路の遠くの方を見ながらトップランナーの到着を待っています。僕達も車を停めて、多くの人達とトップランナーのゴールを見る事にしました。暫くすると周りの人達がざわめき始めました。ずっと遠くにランナーの姿が見えていますが、何処の地区代表かはまだ視認できません。さらにランナーが近づいてくると、あの子供っぽく見えた少年だと判りました。伴走の人達を引き離して、一人で走ってきます。ゴールラインにはこの地区の人達が集まって、すでにお祭り騒ぎになっています。そして、少年がゴール。少し遅れて伴走の人達が一塊になって雪崩れ込んできました。少年はもみくちゃにされながらも、嬉しそうに何か叫んでいます。僕も何だか良い物を見せてもらって嬉しくなりました。

 それにしても、この日は休日ではありません。平日だというのに伴走したり沿道で応援したり、多くの人達が地区対抗マラソンを楽しんでいるのが不思議でした。仕事はどうしたの? でも、やはりこれがスリランカなんですね。


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