ぼくが見て感じたスリランカ紹介65         スリランカの棚田



  棚田というと思い浮かべるのは、山の急斜面を利用して連なって作られた小面積の田んぼ、線状に植えられた緑の苗、機械化出来ない手作業の農耕、そして田んぼ毎の水面に浮かぶ月影、このような風景だと思います。アジア各地の写真等でみても、こんな場所にまで田んぼを造るのは大変だったろうなと感心すると共に、田んぼの連なりの美しさに魅了されてしまいます。

 この様な、英語で‘ライステラス(Rice terrace)’と呼ばれる棚田がスリランカにもあります。但し、上述の如くイメージする棚田とは違って、山の急斜面に作られたものではありません。スリランカの平野地域と山岳地域の中間辺りの緩斜面の丘陵地域でよく見られる棚田です。

 スリランカの場合、山岳地域の開墾されている急斜面は殆どが紅茶畑になっています。棚田の定義というものでもあって、急斜面にある田んぼを棚田と呼ぶのであれば、スリランカの棚田は高低差がある田んぼが連なるだけなのですが、本文では棚田と呼ばせて頂きます。実はスリランカの山岳地域にも多少の田んぼがあります。平野部では水牛を使って農耕作業をしている光景も見られ、これらの地域では機械化も進んでいます。今回は無理矢理かもですがこれら丘陵地域で僕が見た田んぼを棚田と呼んで紹介させて頂きます。

 僕は建設会社に勤めていましたので、新たなプロジェクトを求めて、幹線道路から外れた田舎道を車で走る機会が多くありました。赴任してから半年ほどたったころ、丘陵地帯の田舎道を走っていると、山の斜面の上手から高低差が40〜50cmぐらいで仕切られた田んぼが連なって、僕たちの方向に下りて来ていました。さらに、道路を挟んで下手方向を見ると田んぼが連なって、どんどん下りて行きます。車の前方も後方も同じ光景です。田植えが終わったばかりだった頃で、上手側はよく見えませんでしたが、下手側には植えたばかりの緑色の小さな苗と、日本で見慣れていたものと比較するとかなり細い畦道、一つの田んぼから直ぐ下の田んぼに水を注ぐ通水溝を見ることができました。田んぼの水がキラキラ光るのと、小さな緑色の苗のとのコントラストが実に綺麗です。

 あまりに見事な光景だったので、運転手のウダヤ君に車を停めて貰って、見入ってしまいました。「綺麗なパディー(Paddy=田んぼ)だね」とウダヤ君に言うと、こんな風景の何が珍しいんだという呆れた顔をして、「この様なパディーならスリランカの何処にでもある」という返事が返ってきました。

 僕は、それまで何故気が付かなったのだろうと考えてみると、田植えの直後に通る機会が無かったからでした。スリランカでは田んぼの60〜70%で二期作が行われ、稲刈りが終わると直ぐに田植えが始まります。そのために、この田舎道を何度も通っていたのに、背が高くなった稲ばかり見ていたのでした。

 田植えが終わったばかりの田んぼを見る事が出来た2〜3週後に同じ田舎道を通る機会がありました。その日はたまたま雨が降っていて、雨量が道路の下を通っている通水路の容量を少し越えていたのでしょう。通水路から溢れた雨水が静かに道路を舐めるように渡って下手側の田んぼに落ちて行きます。綺麗な光景です。

 きっと一番上の田んぼのそばに水源があるのでしょう。一番上の田んぼから二番目の田んぼへ、そして次の田んぼへと順々に、そして静かに確実に水は流れ落ちて来ます。僕の眼の前の道路はまるで水を満たした一枚の棚田になってしまって上部から引き継いだ水を静かにゆっくりと次の棚田に落としていっているかのように見えます。この時もウダヤ君と車を停めて目の前を横切って行く、水の流れを見ていました。何だか車のタイヤで水の流れを踏みつけては申し訳ないと思ったからです。道路を跨いで上下に見渡す限り植えつけられた稲の苗は、前回よりも力強く少し背が伸びて緑も濃くなっていました。

 スリランカの人は自分達の事をBig rice eaterと呼びます。訳せば文字通り大飯食らいです。カレーが主食ですから、米をたくさん食べるのは当たり前と言えばそうですね。ところが、カレーが主食という理由もあって、かつてはスリランカでは稲作が盛んで米の輸出国でした。ところが最近は米の輸入国になってしまいました。人口が増えた事もありますが、後継者がいなかったり、都市部で仕事を探すなどで離農者が増えた事も一因になっています。日本と同じように幹線道路沿いの田んぼでは休耕田をよく見かけるようになってきました。
 緑々とした水田の連なりの中にポツリポツリと雑草の生い茂った休耕田があります。スリランカの農村が近代化していく事は好い事なのですが、農村の問題をたくさん抱えている国に住んで居る僕が言うのはおこがましい事ですが、スリランカで棚田の中に休耕田が出現するような近代化は勘弁してほしいです。

 余談ですが、「(癒しの風景)棚田、千枚田の画像ギャラリー(日本、海外)」というサイトを見ると、スリランカの棚田はありませんが綺麗な棚田をたくさんみられますよ             (次号に続く)
   


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