ぼくが見て感じたスリランカ紹介82

                       スリー・パーダ(SRI・PADA)

      

  今回はスリランカ随一の聖地である、スリー・パーダを紹介しましょう。英語名はアダムス・ピーク(ADAM'S PEAK)と言います。

 スリランカの人達は一寸した丘や大きな岩等には神が宿っていると考えて、小さな祠やダーカバ(仏舎利塔)を建立して信仰の対象としてきました。それらの中でも至高の地がスリー・パーダです。日本で言えば富士山に当たるのでしょうが、スリー・パーダでは少し事情が異なります。

 日本の場合には、富士山や町田からも近い大山には講という団体があり、
山自体を一つの信仰の対象ととらえています。ところが、スリー・パーダの
場合には山自体ではなく、頂上にある岩の上に窪みがあり、この窪みを仏教徒は仏陀がスリランカを訪れた時に出来た足跡と考え信仰の対象としています。

 ヒンズー教徒は仏教徒と同じように、シバ神がスリランカを訪れた時に出来た足跡、キリスト教徒とイスラム教徒は、天上を追われたアダムが最初に地上に降りた時の足跡と考えて信仰の対象にしています。これらの4宗教でスリランカ国民のほとんど全員がカバーされてしまうので、国民すべてが各々の信仰によってスリー・パーダは聖なる山と考えています。英語名のアダムス・ピークは直訳すれば文字通り「アダムの峰」、元の君主国英国の意地でしょうか、こういう英文表記は面白いですね。

 スリー・パーダは避暑地や紅茶と高原野菜の集積地として有名なヌワラエリアの南東、宝石の町として有名なラトナプラの北東、中部高原地帯の南端に位置する標高2238mのスリランカで3番目の高さの山です。因みにスリランカ最高峰はピドゥルタラガラで標高は2518m、ヌワラエリアを挟んでスリー・パーダの反対側にあります。

 伝説によると紀元前1世紀ごろに、当時の王様が鹿を追って山に入り、頂上で鹿を見失いました。そして鹿を見失った処に足跡があったとされています。鹿が仏陀の使いと考えられた為に、聖なる足跡とされたと考えられています。その後、代々の王様によってスリー・パーダ信仰が継承され、時代が進むにつれて仏教だけではなく、ヒンズー教やキリスト教、イスラム教にとっても始祖にまつわる、都合のよい伝説が生まれて、スリランカ人共通の聖地となっています。

 12月のポヤデー(満月の日)から5月のポヤデーまでが巡礼シーズンとされ、老若男女多くのスリランカの人達がスリー・パーダの頂きを目指して山を登ります。この期間にはご来光を見るために登る人の為に山道(ほぼ全行程階段)に照明が設置され、山道の所どころに暖かい紅茶や軽食を供する屋台が店を開き、頂上の寺院も開かれて僧侶が読経をあげています。

 ご来光に特に興味の無い方は、日が昇って明るくなってから、登山道から眺める事の出来る周囲の眺望を楽しみながら、ゆっくり上って下さい。ご来光目当てに登ると、登山道は渋滞するわ、頂上はおしくら饅頭状態になるわで、厳粛な光景とは少しばかりかけ離れた雰囲気になります。時間に余裕のある方には、日が昇ってからの登山がお勧めです。

 巡礼シーズンの期間以外は天候が悪く、特に強風が吹くので危険です。また、照明や屋台も無く、頂上の寺院も閉鎖され、麓の休憩所やゲストハウスもほとんどが閉まっています。スリランカの人達は、12月〜5月までの巡礼シーズン以外は、動物達が山頂を目指すシーズンと考えて、立ち入ろうとはしません。

 私たちがスリー・パーダに登るにはナラタニヤ側からと、ラトナプラ側からの2つのルートがあります。ラトナプラ側からは距離が長い上に、道が険しいので、ナラタニヤ側から登るルートを紹介します。ここではキャンディを基点としましょう。

 キャンディまでは皆さん色々な場所を経由して来られる事と思います。キャンディからは鉄道で3時間ほどのハットンに行き、更にハットンからバスに乗り換えて1時間30分ほどでナラタニヤに着きます。キャンディやヌワラエリアからナラタニヤ行きの直通バスも有りますが、此処は絶対に鉄道がお勧めです。この山岳区間はスリランカの鉄道路線の中でも、茶畑の間を縫うように進んで最も景色が綺麗だと言われているからです。

 頂上で御来光を見たい方は、ナラタニヤのバスターミナルの周辺にある仮眠所で休憩します。頂上までは普通の大人の足で3〜4時間かかりますから、各々が脚力にあわせて夜中に出発します。前述したようにほぼ全行程が階段で約5200段ありますが、巡礼シーズンであれば屋台や休憩所が所どころあるので心配無用、いつでも休憩をとる事が出来ます。トイレや救急看護所もあるので、急ぐことはありません。マイペースで、ゆっくり上って下さい。

 スケジュールに余裕のある方は、初日はゲストハウスでのんびり過ごし、翌朝から余裕を持って登頂、ゲストハウスに帰って一杯呑みつつ一休みしてから、つぎの目的地に向かって出発するか、もう1泊なんて言うのもよいですね。

 さて頂上に着いたら先ずは寺院に寄ってお祈りを捧げて下さい。各聖人の足跡は寺院の直ぐそばにあります。なにしろ伝説上の物なので初めてでは、良くは判らない上に、おしくら饅頭状態なので見えるのは一瞬です。岩の窪みを見ると、窪みの下に宝石があり、その下に足跡があるそうです。また、寺院の傍に鐘があります。登頂記念に皆が撞くのですが、これには慣わしがあります。やたらに沢山鳴らしてはいけません。初めの登頂ならば1撞き、2回目ならば2撞きと言う風に、登頂回数に合わせて撞くのが慣わしです。数百回登頂したと豪語していたスリランカの御仁がいましたが、どうするのでしょうかね?

 もう一つ面白い慣わしが有ります。それは、階段を登っている途中で降りてくる人に、頂上まで残りどれぐらいかを聞く事はタブーとされている事です。理由は良くは判りませんが、きっと疲れている時に残り3000段なんて言われるとメゲてしまうからでしょうかね。良い旅を!

                            
(掲載写真:ウィキペディアより)



僕が見て感じたスリランカ・目次へ     TOPへ