ぼくが見て感じたスリランカ紹介84

                       スリランカ・カレーよもやま話

      
今回はスリランカに住んでいた時から僕が感じていた、スリランカ・カレーの事を書いてみようと思います。これまで、スリランカ・カレーの事を書けなかったのは、スリランカにはあまりにも多種多様な、ひっくるめてカレーと呼ばれる料理があるので、僕の頭の中で整理が出来なかったからです。今回はスリランカ・カレーの調理方法抜きに話を進めようと思います。

 スリランカの代表的な料理は何かと聞かれれば、誰もがカレーと答えると思いますが、実は色々と面白い話があるのです。題にあるようによもやま話ですから、調理方法に興味のある方はネットでも調べられますし、「家庭で作れるスリランカのカレーとスパイス料理」という本があるので、そちらでどうぞ。

 まず、最初に書かなくてはいけないのは、スリランカの人にとってはカレーという名前の料理は無い事です。レストランに置いてあるメニューには外国人観光客向けに便宜上、チキンカレー、ポークカレー、シーフードカレー等と書いてあります。英語で喋る時にも○○カレーと呼びますが、シンハラ語で喋る時には違います。チキンカレーを例にとってみると、スリランカの人にとってはチキンのスパイス煮込みという意味のククルマス・ウゼンジャナと言う名前の料理です。その他にも豚肉のスパイシー料理、各種の野菜料理にも個々に名前が付いています、その理由は此処の食材に最も合うスパイスを使う事にあります。凄いのはニンニクだけを食材にしたスパイシーな料理があります。僕も一度食べた事がありますが、スパイスのせいかニンニク特有の匂いは殆どしませんでした。聞いたところでは、この料理は体力の落ちている時に食べる料理のようです。この後は話を進めて行く上で不便なので、○○カレーと称します。

 日本で一般的なカレーと言えば、肉類やシーフード等をジャガイモやタマネギ等の具材と一緒に炒めたり、煮込んだりして作ります。スリランカ・カレーでは全く異なります。例えばチキンカレーであれば、トマトと玉ねぎを加える事は有りますが、基本的には野菜等の具材は一切加えません。チキンをニンニクやその肉に最も合う各種スパイスで炒めたり煮込んだりするだけです。出来上がってお皿に盛ると、本当にチキンとスープしかありません。ポークやビーフも同じですね。シーフードも同様に海老は海老だけで料理します。カニやイカ、マグロやサワラ等を食べますが、個々の種類の食材だけを調理します。次は食事の方法です。

 これらの個々に調理した数種類のカレーと大量のご飯をテーブルの真ん中に置きます。先ずはお皿にご飯をよそい、次に数種類のカレーをご飯にかけます。更に付け合わせとして、小麦粉を練って油で揚げたパパダンと呼ばれるお煎餅状の物や、ココナツの果肉を唐辛子とニンニク片、モルディブフィッシュ(発酵させていない鰹節)、ライム汁で和えたポルサンボールを皿にのせます。これから食事が始まります。スリランカの人は指先を使ってご飯と数種類のカレーを混ぜ、パパダンを砕いてこの上にかけてから、指先でご飯を口に運びます。スリランカの一般家庭では普段の食事では魚と野菜のカレーが中心で、肉類を使ったカレーは御祝い事などの晴れの日の食事になります。もし、旅先の家庭で肉料理が出てきたら、大歓迎されていると思って下さい。お米の種類や炊き方、パパダンやポルサンボール等のサイドメニューについては次回説明します。

 もう一つ日本と大きく違うのは、カレーの調理時間です。日本では前日から仕込んだ上で、数時間煮込んで完成になります。スリランカではこのように悠長な事は出来ません。何故かと言えば、スリランカでは朝・昼・晩と3食全てカレーを食べるのが一般的だからです。毎食ごとにご飯を炊いて数時間もかけてカレーを調理するなんて事は不可能です。ですから、朝食時にはご主人がお手伝いをすることが多くなります。僕の友人家族の多くは朝食にはご飯よりもパンを食べています。この朝食用のパンを買いに行くのがご主人の毎朝の日課、子供も一緒に連れて行きます。

 集落の雑貨屋さんまでパンを買いに行くのに付き合った事があります。パンを買いに行く友人を見つけると、ちょっと立ち話。歩きながら喋ればと思うのですが、スリランカの人は急ぎません。ひとしきり喋って歩き始めても、すぐに次の友人に遭遇、そしてお喋りの繰り返しです。子供は子供で遊び仲間と走り回っています。漸く雑貨屋さんに着いてパンを購入しても、直ぐには帰りません。買うわけでも無いのに店にある雑貨を物色し始めます。家を出るのが随分と早いなと思いましたが、これでは時間が掛かるはずです。恐らく、家では邪魔者がいないので、奥様の仕事がはかどっている事でしょう。朝食後に出勤したご主人や学校に行った子供が、昼食を食べに一端帰宅する家も結構多いので、奥様は家族を送り出して暫くすると昼食の準備です。朝食を作る時に一緒に作ってしまえば効率が良いのに、とお思いの方もいるでしょうが、そうはしません。理由は、スリランカ・カレーの命はスパイスの香りだからです。僕なんかは翌日食べるカレーも好きですが、スリランカでは朝食でカレーが余れば捨ててしまいます。スパイスの香りが飛んでしまった為です。昼食の為に一時帰宅出来ない家族には、昼食時間に合わせて自宅から温かいお弁当を届けるサービスもあるそうです。

 日本で初めてカレーを食べたのは福沢諭吉である、という説があるそうです。それらは次回に紹介しましょう。



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