ぼくが見て感じたスリランカ紹介87

                       スリランカ・カレーよもやま話W

      

 前回話したように、私達が日常的に食べ慣れているカレーは、スリランカやインドから直接伝えられたのではなく、先ずはヨーロッパに伝わった後に、ヨーロッパ料理の一つとして日本に伝えられました。ヨーロッパに渡ったカレーは、最初の頃は主にヨーロッパ各国の王室や貴族などの上流階級で、遠い異国の料理として食べられていました。主な調味料であるスパイスが非常に高価であったために、中流階級以下の家庭ではなかなか手が出なかったのでしょう。もしかするとカレーという料理名すらも知られていなかったかもしれません。ヨーロッパに渡ったカレーがどのように変わっていったかを僕なりに推測して読者の皆さんにカレーのルーツを知ってもらう機会になればよいと思います。

 当時の上流階級の家々には其々お抱えの料理人がいました。料理人達は初めてカレーなる料理を作れと主人から命ぜられた時には、さぞかし困った事でしょう。ごく一部の料理人は主人に帯同されてスリランカやインドでカレーを食べた事があったでしょうが、大部分の料理人にとっては、カレーとはスパイスを多用した未知の料理です。最初の頃にはレシピも整っていなかったと思います。主人が現地で食べた経験があれば、どのような味の料理なのか、どのようにして食べるのかを主人に聞くことが出来ますが、ほとんどの主人は食べた経験がなかったはずです。恐らくは上流階級の人々が集まるサロンか何処かでカレーという食べ物がある事を聞いて、気まぐれに料理人に作るように命じたのでしょう。

 カレー料理を作ることを命じられた料理人は主人から聞いた話や現地で食べた事のある料理人仲間から集めた様々な情報から調理したのではないでしょうか。当時も今も、ヨーロッパ料理の命と言えばソースです。未知の料理とはいえ、料理人たちはカレー料理の調理はソースを使う料理を応用したはずです。多分ソースにカレー用のスパイスを加えて食材を煮込んだと思いませんか。更に、シチュウを煮込むように赤色や緑色の食材、ジャガイモなどの野菜も加えてより豪華な料理にした事でしょう。何しろ上流階級ですからね。ところがソースをベースにした料理はフォン(ソースのベースとなる出し汁)作りから始まりますので、玉ねぎなど、野菜の「甘味」が加わり、更にジャガイモ等の野菜を加えると「とろみ」が付くので、スリランカやインドのカレーとはかなり違ってきます。スリランカやインドの様に暑い気候ではないので、辛みによって食欲を増進させる必要もないので、これ位の違いは許容範囲内だったと思われます。

 さて、英国ロンドンには18世紀初頭から仕出し屋を営業していたクロス&ブラックウェル(C&B)という会社がありました。上流階級でのパーティー等に食事を提供していたのですが、カレー料理の注文が増えるにつれ、1回ごとに貴重なスパイスを調理するのではロスも出るし、手間もかかるのでもっと安価で手軽にカレー料理を作ろうと研究を重ね、18世紀終盤にはC&B Curry Powder(以下カレー粉)を商品化する事に成功しました 。この商品が市場で売られるようになって、ヨーロッパの中流階級以下の家庭にもカレーという料理が広がり、多くのレシピが誕生する事になります。

 日本では明治維新によって開国され、文明開化の波に乗ってC&B社 のカレー粉とレシピ本が日本に伝わりました。冒頭に書いたように、これらのレシピ本では、他の料理と同様にカレーもヨーロッパ料理の一つとして紹介されましたので、スリランカのサラサラとしたカレーとは全く違った料理がカレーとして日本に定着して行く事になります。

 ところでスリランカのカレーは、前回も書いたように、色々な食材を一緒に調理した日本のカレーと違って、単独の食材それぞれを最も生かす何種類かのスパイスを使って調理されます。

 日本でも最近は多種多様なスパイスが、わざわざ専門店に行かなくても近所のスーパー等で購入できるようになりましたから、スパイスを選んで自分好みのカレーを作る事が出来るようになりました。これまではカレー粉や固形ルー無しには、家庭ではカレーを作るることは出来ませんでした。僕も子供のころから母親の作ってくれた、肉や野菜を炒めて水を加え、カレー粉と小麦粉を炒めたルーを入れて作るカレーが大好きでした。僕はいまでも、普段は辛めの固形ルーを使ったカレーを作って食べています。スリランカのカレーも日本のカレーもそれぞれ美味しいですからね。日本のカレーについてスリランカ人の友人に聞いてみると、自分達のカレーとは全く別の食べ物として食べれば、結構美味しいと言っていました。また、インド人に日本のカレーを食べさせたところ、「美味しいです。これは何という料理ですか」と訊かれたという話をよく耳にします。

 取り止めのない話になってしまいました。カレーの話は、きりがないのでもう1回で止める事にします。



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