「風をたべた日々」(渡邉義孝著 日経BP社)

 旅行記を読むと、その人と一緒に旅をした気になる。随分安易な旅だけれど、それでも旅した気持ちに変わりはない。渡邉さんとの旅は、大変だったことも温かく包み込んでしまう、魅力あふれた旅だった。そこには現地で無条件に手を差し出す人々の存在と、戸惑いながらも素直に善意を受け入れる渡邊さんの姿がある。こういう人間関係のなかで旅ができる人は、案外に少ないのではと思う。

 渡邉さんの旅はスケッチブックと画材を道連れに続く。中国・北京から出発、カザフスタン・アルマアタまでがひとつの旅。中国・上海からネパール、インド、パキスタンを経由、トルクメニスタン、ウズベキスタン、キルギススタン、カザフスタンまでがもうひととつの旅。リュックを背負いひとり旅だ。宿を予約するなんて野暮なことはしない。「この村に宿はありますか?」という一言があればなんとかなる。「ウチにおいで」と素敵な出会いに繋がることしばしば。長い道中、賄賂を要求されたり、悪天候に倒れたり、肺炎に侵されることもあり。中国人になりすまして、外国人立入禁止地域へ入り込むことあり。渡邉さんのエネルギッシュな面々があらわれる。

 渡邉さんは道中出会う旅人に旅の目的を尋ねている。逆に渡邉さんの旅の目的は?と、尋ねたくなる。なんのために、危険を冒してまで渡邉さんは前に進むのか。スケッチブックを手にした渡邉さんが答えるとしたら「自分の知らないところで人が生きている。その人の、なるべく近くまでいきたいから」ということか。そういえば、写真家の永倉洋海氏がこんなことを言っていた。「誰でも自分なりの道具を持つことで人と出会う機会が与えられます(中略)自分の道具なり得意なものを持つことで少ししんどいと思う人間関係が、楽しいものになっていく」。絵でも写真でも、自分の道具を持つ人は強い。持たないということは、本当に、しんどい。

*著者の渡邉義孝氏のHPhttp://member.nifty.ne.jp/w_yoshi/index.htmlです。