五体投地で1年かけてラサまで行く巡礼者を描いたロードムービー。それを知ってすぐにも見たくなり、9月の新百合ヶ丘での上映を待たずに渋谷の映画館に駆け込んだ。 2014年11月中旬、友人と二人ラサを中心にチベット旅行したことを思い出す。晩秋のチベットは茶色・黄土色・灰色、乾いた土の世界。人々は農閑期を利用して、各所に点在するチベット仏教の寺院を巡礼する。特にラサにある最も聖なる寺院ジョカンを参拝するのは、彼らの一生の目的で、チベット全土から人々がやってくる。ジョカンの門前では、その場で五体投地を繰り返し礼拝する大勢の人を見た。寺院内部では、少年も交えた巡礼の一団が座り込んで、途切れることなく熱心に経を唱えていた。 ジョカンの周りでもポタラ宮の周りでも巡礼する人が引きも切らない。数珠を持ちマニ車を回し、列が途切れることがない。五角の札束を持ってあちこちの仏の前で寄進している人たちも大勢見かけた。私たちの車の運転手もかごに五角札をたくさん入れて、行く先々で寄進していた。チベット人の信仰心の厚さには驚くばかりだ。 この映画の出演者は実際の村人だという。 チベット自治区の東端マルカムに住むニマは、生きているうちにラサへ行きたいという叔父の願いを叶えるため巡礼に出る。高齢の叔父、身重の妻、幼い女の子、屠殺を生業とする村人...総勢11名。途中、交通事故や落石や巨大な水たまりなどの困難に遭遇する。しかし、彼らは合掌し身体を大地に投げ出しうつ伏せ、起き上がる。それを繰り返して前進する。決してズルをせず、尺取虫のように歩を進める。ラサへ…。 一年間かけて撮影された途方もなく美しい景色にうっとりする。「五体投地は他者のために祈ることだ」セリフは少ないが、何気ない言葉に信仰の深さがうかがわれる。 生まれ育つ村でも巡礼中も、明けても暮れてもツァンバを食べ、バター茶を飲み、祈り、眠るシンプルな暮らし。トラクター・ケータイ、文明の利器は少しずつ入ってきているが千年以上続くゆるぎない暮らしを映画の中に見る。安定と平穏。片や、利潤・成長・効率・変化を求め、巨大地震や原発事故、テロが起きればひとたまりもない砂上の楼閣に住む私たち。私たちは豊かで彼らは貧しいと言えるのか。 そのようなことを考えながら、生きているうちにまたチベットへ行きたくなった私である。 映画案内 『ラサへの歩き方〜祈りの2400q』 トロント国際映画祭正式出品・プサン国際映画祭正式出品・ロッテルダム国際映画祭正式出品・ 2016年7月23日(土)〜 渋谷シアター・イメージフォーラムで公開 2016年9月10日(土)〜 新百合ヶ丘アルテリオシネマで公開 |
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