媛媛講故事―12

                         
      孟姜女の伝説 Ⅱ             何媛媛

 

 何ヶ月もの旅を続けて、やっと長城建設の工事現場に辿り着いた孟姜女は、人々に夫が何処にいるかを尋ねました。しかし、誰もが首を横に振って分からないと答えました。何十万人の労働者の中から夫一人を探し出すのは到底無理なのです。

 それでも諦められない孟姜女は捜し続け、終にある老人から夫はすでに死んでしまっていると告げられ、その骨は万里長城の真下に埋められたという事実を知ると、孟姜女は長城の城壁を力いっぱい叩きながら胸を引き裂かんばかりの声で泣き始めました。

 孟姜女が声を立てて泣きに泣き続けている間に、日や月は光を失い、天も地も暗くなり、寒風が吹き起こり、川にも荒い波が立ち始めました。そして突然、ごろごろと天地が裂け砕ける様な大音響が四方に轟き渡ると、万里の長城の数里が崩れ落ち、中から無数の白骨が現れました。孟姜女は泣きながら、それらの白骨の中から夫のものを見分けて拾い出すとお墓を造りたいと思いました。

 折も折、万里の長城の工事状況を見回っていた始皇帝は、長城の一部が孟姜女の泣き声で崩れ落ちたことを伝え聞くと非常に怒り、兵士たちを引きつれて孟姜女の所に来、彼女を殺そうとしました。しかし、孟姜女はあまりに美しく、その美貌に心を奪われた始皇帝は、自分の妃にしようと側近の者に説得を命じました。けれども側近の者たちは誰も孟姜女を説得できず、やむなく始皇帝は自ら孟姜女の許に行き、「欲しいものがあるなら、なんでも与える。言ってみよ」と甘い言葉で懸命に説得を試みました。

 孟姜女はこの機会を利用して、できるならこの暴君を殺し、夫を殺された恨みを晴らしたいと策を巡らせて言いました。

 「三つのことをお願いできるなら承知します。一つ目、お墓を造り、石碑も立て、良い棺で夫を埋葬すること。二つ目、皇帝と官吏たちは、喪服姿で葬式に列席すること」。二つ目の望みを聞いた始皇帝は「皇帝が一般人の葬式に参列は出来ない。三つ目の望みを述べてみよ」と言いました。しかし、孟姜女は「二つ目の望みを叶えて下さらなければ、三つ目の望みを叶えることはできません」と答えました。

 どうしてもこの美しい女性を失いたくない始皇帝は、「よかろう。三つ目はどんな望みなのだ?」と孟姜女に尋ねました。彼女は三つ目の願いとして、「海を三日間見たいのです」と伝え、始皇帝も「それは容易なことだ」と承知しました。

 お墓を立て、棺を造り、夫を弔う為のいろいろな準備しました。そして葬式の日、始皇帝は孟姜女の望み通りに官吏達を引きつれ盛大な葬式を行いました。葬式が無事終わると、孟姜女は「次は海に行きましょう」と始皇帝一行を誘い、船に乗って海の沖へと出て行きました。

 穏やかな美しい海でした。が、突然、孟姜女は自らの身を海に投じ、あっという間に波間に呑まれて行きました。と同時に海は大波が逆巻き大荒れになり、始皇帝は孟姜女を救うこともできず我が身大事と命からがら慌てふためいて逃げ帰りました。

 始皇帝を殺すことこそ実現できませんでしたが、大胆に権力に反抗し、夫に対する愛情を貫いた孟姜女の精神はその後の人々に感動を与え続け、「孟姜女、万里の長城を泣き崩す」という物語となりました。この物語は音楽や芝居などいろいろな形で上演されていますし、中国の有名な観光地・山海関の東の鳳凰山には「孟姜女廟」が造られ、夫を想って海を眺める孟姜女の姿があります。




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