'



  媛媛講故事―27

                                 
  八仙人の伝節 
                                   
                                藍采和(らんさいわ)             何媛媛



 八仙人の中で、一番庶民に近い姿をしているのは藍采和といえるでしょう。
 藍采和は、いつもぼろぼろの上着を纏い、破れた竹籠を持ち、片足は裸足、片足は靴を履き、男なのか、女なのか性別もはっきりしません。又、話によれば、藍采和の出身地は不明で、冬、薄着でいても寒そうに見えず、夏に綿入れを着ても汗をかかず、実に奇妙な人物です。彼は拍子木を叩き歌って街を歩き、人々から食べ物やお金を恵んでもらいながらあちこち行脚していました。

 ある時は町の露天劇場で面白おかしい芝居を演じたりすることもありましたので、「藍采和」は芸名ではないかとも言われています。街の人々から恵んで貰ったお金は貧しい人々に渡したり、或は財布を紐で繋いで引きずって歩き回ったりしてなくなることがあっても気に掛けず人々に拾われるのを待っているようでした。

 お酒はめっぽう弱いくせに飲むのが好きで、酔えば踊りながら歌を歌いました。歌の内容は、時に深い意味を感じさせるものもあれば、誰にでも分かる平易なものも有り、また有る時は荒唐無稽で意味不明のものもありました。

 藍采和はいつもそんな風でしたので、町の人々は面白がって彼の後ろについて廻りました。ところがある日のこと、藍采和がいつものようにお酒を飲んで酔ってしまったところ、突然、天から美しく妙なる音楽が響いてきました。その音色が藍采和の耳に届くと、藍采和はふと目を覚まし、やにわに靴を脱ぎ、ぼろぼろに破れた上着も脱ぎ捨て、手にしていた拍子木を打ち捨てて、ふわふわと空中へ舞い上がって行きました。

 その後、「藍采和は仙人になった!」という噂話が町中に広がり、町で彼の姿を見かけることは滅多になくなりました。まだ小さな子どもの頃に藍采和を見たことがあるという老人が、街かどで藍采和を見かけたそうですが、その容貌は若々しく、昔のままで少しも変わっていなかったそうです。

 藍采和についてはまた別の言い伝えもあります。実は、彼の祖父はお医者さんで、藍采和が十八歳になった頃から祖父の手伝いをするようになり、その内自然と医術が身に付いてきました。彼はしばしば薬草を採りに山へ出掛けましたが、お腹が空けば野生の果実を食べて空腹を満たし、喉が渇けば泉の水で渇きを癒しました。霊薬としてよく知られた霊芝や茯苓を口にすることもよくあったそうです。

 そのような或る日、汚い衣服を纏ったおじいさんが蓮池の傍で寝ているのを見掛けました。近づいてよく見ると、おじいさんのお腹には瘡ができて、膿を持っています。あまりに痛そうなので藍采和は見かねて、その膿を絞り、薬を塗ってあげました。と、なんとその傷から血が流れ始めました。どうしたことか事情が分からず呆然としていると、おじいさんは怒って「馬鹿者!早く水で流してくれ!」と藍采和を怒鳴りつけました。藍采和は慌てて背負っていた籠で池の水を汲みました。しかし、籠は水を溜めておける筈はありません。おじいさんの傍に着くまでに水は一滴も残らずすっかり漏れてしまっていました。「泥で籠を塗って!」とおじいさんはまた怒鳴りつけ、藍采和は急いで泥を籠に塗り付け、水を汲んで来てみると、水は今度は泥水になってしまっていました。

 「泥水を治療に使えるもんか!奇麗な水を汲んで来い!」おじいさんの罵声はもっと高くなり、藍采和はすっかり途方に暮れてしまいました。と、その時、後ろに女性の笑い声が聞こえ、振り向くと美しい女性が後に立っていました。

 「蓮の葉と泥、どっちが使いやすい?」女性が笑いながら尋ねました。それを聞いた藍采和は「はっ!」と気が付きました。急いで一枚の大きな蓮の葉を切り取ると籠の中に敷き、水を汲み入れて見ました。喜ばしいことに水は一滴も漏れずにおじいさんにところへ運ぶことができました。そして、その清らかな水をおじいさんの傷に静かにかけると、なんと傷は見る見るうちに消えてしまいました。

 おじいさんは「ハ、ハ、ハ!」と大きな声で笑いながら元気に立ち上がり、「ああ、ご苦労さんだったねぇ。泉の水の効力はたいしたもんだねぇ。お前さんも 飲んでみないか?」と言いました。目前の一連の出来事に茫然自失していた藍采和でしたが、おじいさんの勧めに従って手で水を掬って飲んでみました。と、忽ち、頭がすっきりとして、体も軽くなったようでした。

 と、このとき、「あなたはもう仙人になったのよ!私達と一緒に蓬莱仙島へ遊びに行きましょうよ」と耳元でささやく声がしました。その途端、藍采和の手はおじいさんにしっかり握られて空高く舞い上がって行きました。

実をいえば、そのおじいさんとは鐘離漢(わんりぃ5月号/153号)で、女性は先月号で紹介の何仙姑です。二人は藍采和に仙人になれる素質があるとみて、仙界から彼を迎えに来たとのことでした。


     



                                *


                                 TOP