媛媛講故事―28 八仙人の伝節 Ⅷ 曹国舅(そうこくしゅう) 何媛媛 今回紹介する「曹国舅」の名前にある「国舅」は、中国語では皇后の兄や弟であることを示しています。 これまで紹介した八仙人たちは皆、唐代の人物として伝えられていますが、この「曹国舅」は、宋代の人で、宋の仁宗皇帝の后である曹皇后の弟だといわれています。それが本当だとすると「曹国舅」は堂々たる貴族の出身ということになりますね。ですからその姿も、李鉄拐や、藍采和などの貧しい身なりとかなり違って、手に笏を持ち、豪華な役人の服を着、役人の帽子を被り、玉の帯を付け、なかなか由緒正しい人物のように見受けられます。 伝えらている話では、曹国舅はもともと豪華な生活にも強い権力にもあまり興味を持たず、道教に深い関心と興味を寄せていました。彼には弟がおり、その弟も当然ながら曹皇后の縁者ということで、人々から「国舅」と呼ばれれる身分です。しかし、その弟の方は自分が宮廷の縁戚に繋がることを恃んで、百姓たちの土地を奪ったり、美しい女性を見れば有無を言わさず強引に自分のものとし、時には悪人と結託して悪事を働くなど非道の限りを尽くしていました。曹国舅は常日頃、折を見ては心を込めて弟を諌めていましたが、弟の心を入れ替えたくもその術は何処にもありませんでした。 ある日、曹国舅は馬に乗り、何名かの部下を連れて、郊外へ散策に出掛けました。時はちょうど春で、穏やかな陽射しが降り注ぐ中、曹国舅は爽やかな空気を胸いっぱい吸って仕事の上での煩わしいことはすべて忘れ、こののどかな春の雰囲気を満喫していました。 と、その時、森の中からかすかな泣き声が漏れ聞こえてきました。どの方向から聞こえてくるかと耳を澄ませていますと、その泣き声は益々激しくなって、曹国舅のさわやかな心境はすっかり壊されてしまいました。 曹国舅は部下と共に泣き声のする方向に進んで行って見ますと、或る墓の前でひとりのお婆さんが、髪をふりみだしてわあわあと泣き叫び悲嘆にくれていました。曹国舅は部下にその理由(わけ)を尋ねさせました。 部下は戻って来ると、「おばあさんの息子が死んだそうだ」と答えました。曹国舅は「人間は誰しも、生、老、病、死から逃れることはできない。あまり悲しまないよう、よく慰めてあげてくれ」とまた部下に命じました。間もなく戻ってきた部下が、「彼女の息子は、病死ではなく、悪人に殴られて死んだそうです」と告げました。 曹国舅は「なんということだ!もう一回行ってその詳しい事情を聞いてみよ」と言いつけました。部下は戻ってくると「ある役人が息子の嫁を奪って連れてゆこうとしたので、息子がそうさせまいと必死に嫁を庇うと息子は酷く殴られて死んだ。嫁も悲しみのあまり、自ら川に飛び込んでんで亡くなった、といっています」と報告しました。 曹国舅は大層怒って、詳しい事情を聞きたいと部下におばあさんを連れて来させました。おばあさんは、自分の悲しみの事情を知りたいという役人が目の前にいることを知ると、すぐさま地面にひれ伏して泣きながら訴えました。 「お役人様、どうぞ力を貸してください。息子と嫁の死に方はあまりにも可哀相です」 「いったい、息子を殺した役人は誰だ、名前を言ってみよ!」 曹国舅が聞きました。 「それは、悪名高い曹国舅なのです!」 自分達が仕えている曹国舅の弟もまた、曹国舅と呼ばれていることを知らない部下たちはびっくりして言葉を失ってしまいました。 「何を言うのだ!嘘を言うものではない。曹国舅殿は心の優しい、そして民をわが子のように愛していらっしゃるお方だと誰もが知っているではないか!?そんなひどいことをされるお方ではない!」 おばさんは、部下の一人が言うのを聞くと怒りました。 「役人同士だからお互い庇いあうのだ。でも私は嘘はいっていない!」 それを聞いたその部下は更に怒りを増しておばあさんに言いました。 「よく見よ!今馬に乗られているお方が曹国舅殿だ。私たちは毎日いつも曹国舅殿と共にいるが、そのようなことをされるのを見たことはない!そのような嘘を言うものではない!」 おばさんは、自分の目の前の、その馬上の人物が、まさに曹国舅だと聞くや、すぐさま立ち上がり、狂ったように馬のもとに駆け寄ると馬の手綱をしっかり握り、 「お前がその曹国舅か!?。なんということをしたのだ!息子と嫁を返してくれ!」 と叫びました。 曹国舅の馬は、知らない人にいきなり手綱を強く引かれてびっくりし、蹄を上げるやおばあさんを蹴りつけました。おばあさんは口から血を流して倒れ、曹国舅も落馬してしまいました。部下たちは、慌てて曹国舅を助けようとしますと、曹国舅は顔色を変えて怒り、「早く!おばあさんがどうなったか見よ!」と言いました。 部下が慌てておばあさんを診ると、おばあさんは既に息が絶えていました。その報告を聞いた曹国舅は、 「弟は、国舅の身でありながら、なんと非道なことをしたものだ。国法が許すことではない!」 と天を仰いで嘆きました。 実は、曹国舅はおばあさんの話を聞いているうちに、おばあさんの息子と嫁に危害を加えたのは自分の弟だと分かりました。曹国舅は、おばあさん一家に詫びようもなく、と同時に、おばあさんの怒りと悲しみの深さを推し量り、宮廷に戻ったら、皇帝に事実を報告し、弟を捕え、国法に従って処刑しようと心に決めました。しかし、宮廷に戻り皇帝にその事実を告げる前に、話を漏れ聞いた弟の曹国舅は国を抜けて逃亡してしまいました。 弟の行為は自分の恥だと深く感じた曹国舅は、官職から退くと役人の服を脱いで山に籠り、道教の真髄を究めるため仙術道の修練に励みました。 そんな風にして数年ほど経ったある日、曹国舅は、山で仙人らしい風体をした二人の人物に出会いました。二人は曹国舅に尋ねました。 「あなたが修行していると聞いて来たのだ。何を修業しているのだ?」 「道を修養している」 「道はどこにある?」 再び二人に聞かれた曹国舅は手で天を指しました。すると、更に 「天はどこにある?」 と尋ねられました。曹国舅は手で心臓のところを指しますと、二人の仙人らしい人物は「は、は、は」と大きく笑いながら、 「心、即ち天、天、即ち道だ。貴方は道教の真の道義を悟られた」 と言いました。 実はこの二人こそ、すでに仙人になっていた呂洞賓と鐘離漢でした。その後、曹国舅は呂洞賓と鐘離漢の二人から様々な仙術の秘訣を教わり、後に八仙に加えられたとのことです。 ******* 前に戻る TOPへ |
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