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  媛媛講故事―28

                                 
  八仙の伝節 
                                   
                                八仙、海を渡る             何媛媛



  これまでの紹介で、伝説の‘八仙’(注)は全部、‘わんりぃ’に登場しました。さて、八仙が勢ぞろいしたところで、また一つ事件が起こりました。それは中国人なら、老いも若きも、男も女も、誰でも知っている物語「八仙、海を渡る」です。

 或る年の3月3日のことです。毎年のこの日は西王母がすべでの仙人を呼んで盛大な宴会を開くならわしになっていました。もちろんこの八仙たちのグループも招待され、彼らは打ち揃って一緒に出掛けて行きました。

 西王母の宴会は年にたった一度の楽しい集いなので、皆、思う存分飲んだり、食べたりして賑やかに過ごしました。八仙たちは、宴会が終わってもまだ十分楽しんでいないと感じていました。呂洞賓(ろどうひん)が、どこか風景の良いところに行こうと提案すると、八仙たちはそれぞれの宝物を持って雲に乗り、東海の辺にやって来ました。

 東海は、見渡す限り白い波が次々と打ち寄せては返しており、八仙たちはその雄大な景色に見惚れ、更に気分よく上機嫌でいました。と、突然、海原の遠い彼方にピカピカと光輝く壮麗な宮殿が目に入りました。あれは何だろう、あそこへ遊びに行こうということになりました。

 しかし、呂洞賓が言いました。

 「この東海地方は東海竜王の縄張りだから、腕の立つ兵士が多い。我々はこの海辺の景色を眺めるだけで十分だ。トラブルになったらまずいだろう?」

 鉄拐李(てつかいり)は言い返しました。

 「東海竜王は悪事をよくやるやつだ。我々が彼を恐れたら世間の笑いものになるだけじゃ!」

 呂洞賓は続けて言いました。

 「いや、我々にとっては修業が一番大切だ。争いは避けた方が良い!」

 しかし、鉄拐李は呂洞賓の話に全く耳を貸そうとはせず、「やあ、わしは東海竜王如きには全く恐れないぞ!では、行くぞ!」と言うなり、自分の杖を波に向って放つと、一隻の小さい船が目の前に現れました。鉄拐李は、船に飛び乗ると海へ漕ぎ出して行きました。

 それを見ていた八仙たちは、心配をするものもおりましたが、鉄拐李同様に好奇心をそそられ、鉄拐李の後を追いかけることにしました。

 鐘離漢(しょうりかん)は、先ず彼の大きな団扇を水に浮かべその上に乗ると、鉄拐李の後を追って海の上を進んで行きましたし、張果老(ちょうかろう)が驢馬に跨ると、驢馬は海水を素早く掻いて沖に向って行きました。韓湘子(かんしょうし)が海辺に立って笛を吹くと海水は左右に分かれて小道が現れ、韓湘子は笛を吹きながら其の道を進んで行きました。

 何仙姑(かせんこ)の籠には西王母の花園で摘んだ花がいっぱい入っており、其の籠を海水に浮かべて足を入れると、竜宮に住んでいる竜女達が、花の香りに惹かれ、籠を囲んで沖へ沖へと押し進めて、何仙姑はまるで花の輿に乗っているかのようでした。 曹国舅(そうこくしゅう)も自分の笏を、藍采和も自分の拍子木を海水に浮かべて足を乗せると、まるで平坦な道を進んで行くかのように沖へと進んで行きました。

 呂洞賓だけが残りましたが、八仙たちが皆、行ってしまうと、彼も仕方なく、行くしかないと覚悟を決めて背中から剣を下ろして海水に突き刺すと、水面に薄い煙がふわふわと漂い始め、ついには奇麗な雲に纏ると呂洞賓は其の雲に乗って皆を追って行きました。

 ところで八仙たちはそれぞれの宝物を駆使して東海を渡って行く途中、海水が高い波となって彼らの宝物に打ち付け、彼らの宝物の美しい輝きが龍宮にまで届きましたので竜王は吃驚しました。

 「誰がわしの頭の上を騒がしているのか? 行って見てこい!」と兵士に偵察させました。まもなく兵士が戻って来、「大変です!呂洞賓たち、八仙がそれぞれの宝物を使って海を進んで来ています」と、報告しました。

 「慌てるな。奴らは小技しか使えない。わしの恐ろしさを思い知らせてやろう」と竜王が言い、そして頭を大きく振って体を大きな竜の形に変え、海面に突き出して辺りを眺めると、ちょうど拍子木に乗った藍采和が近くにいるのが目に入りました。

 竜王は、「まずこの宝物を私の物にしても悪くないじゃろう」と思い、大きな口を開けて藍采和の拍子木を奪うと嬉しそうに海底に戻って行きました。




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