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  媛媛講故事―40

怪異シリーズ 9
                                   
鬼の話・その一 騙された鬼(注1)                                         何媛媛

   

 河南省の南陽地方に宋定伯という人がいました。彼が若い頃の話です。或る日出掛けて帰りが大変遅くなりました。夜道を歩いていますと、鬼に出会いました。宋定伯は怖ろしさに震えながら勇気を出して訊ねました。

 「あなた、何者ですか?」

 鬼は「私は鬼です」と答え、今度は鬼が訊き返しました。

 「あなたは誰ですか?」

 宋定伯は、いくら怖がってもどうしようもない。それなら思い切って鬼と付き合ってみようと次のように答えました。

 「私も鬼ですよ」

 鬼は又訊きました。

 「どこへ行かれるんですか?」

 「宛県(注2)の市場へ行こうと思っています」

 「私もそこに行こうと思っていたところです。では、ご一緒に行きましょう」と鬼が言いました。

 宋定伯は臍を決めて鬼と同行しました。

 二人が何里(注3)か歩いた頃、鬼が言いました。

 「このままずっと歩いたら、疲れてしまいます。それよりお互い交代で負(お)ぶさりあった方が楽かもしれないですね。いかがですか?」

 宋定伯は

 「それはいい考えですね」

 と同意しました。そして鬼がまず宋定伯を負(お)ぶい何里かを歩くと、鬼が、

 「あなたは随分重いんですねぇ。本当に鬼ですか」

 と疑っているように言いました。

 宋定伯は

 「私は死んでまだ間もないのですよ。だから重いのでしょう」

 次に宋定伯が鬼を負ぶう番になりました。鬼はふわふわと軽く大変楽でした。

 このように二人は何回も順番に負ぶい合いながら歩きました。

 宋定伯は何かよい策があれば鬼から逃れることができるかもしれないと思い、試みに鬼にいろいろ質問してみました。

 「私は新鬼ですので、鬼の生活の経験がありません。分からないことが沢山あるので教えてくださいませんか。まずお伺いしたいのは、鬼は、何が一番怖いのですか?」

 鬼は「人間の唾が大嫌いです」と教え、宋定伯はそれを頭に入れました。

 またしばらく歩き続けていますと、目の前を川が流れています。宋定伯は鬼を先に渡らせました。鬼は体が軽いので、水の音を全く立てないで川を渡って行きましたが、宋定伯が渡るとザブザブと水の音がしました。

 鬼は不思議に思って

 「あなたが川を渡ると、どうして水の音がするのですか」

 と訊きました。宋定伯は

 「死んでから川を渡るのは初めてなんですよ。まだ水に慣れていないのです。仕方ないでしょう」

 と答えました。

 とうとう市場が目前のところまで来ました。宋定伯は鬼を背中にしっかり背負って一目散に道を急ぎました。鬼は宋定伯の背中で「下ろしてくれ、下ろしてくれ!」と「わあわあ」わめきましたが、宋定伯は応ぜずに市場に向かって走り続けました。間もなく市場に着いて宋定伯が鬼を下ろすと、鬼は忽ち一匹の羊に変わりました。

 宋定伯はその羊を売ってお金にしたいと思いました。ただ鬼がまた何かに変わると困ると心配して、鬼に向かって唾を吐きましたので、鬼は縮み上がってもう他のものに変わることができませんでした。宋定伯は安心し市場で羊を売って千五百元のお金を得て市場を去って行きました。
 その後、「宋定伯は鬼を売って、千五百元を儲けた」という噂が広がったということです。

注1) 中国の鬼は、死者の霊魂、亡霊、幽霊のことをいう。鬼の姿や性格は、人間の想像によって、様々に変わるが基本的には、ふわふわ軽    く、暗闇で活動し、ときに優しく、ときには怖ろしい姿にもなり、その時々に応じて千変万化の力を発揮する。
注2) 宛:旧い地名、河南省南陽市の近く
注3) 古い距離の単位、一里は0.5km。



                               
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