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  媛媛講故事―40

怪異シリーズ 9
                                   
鬼の話・その二 新鬼と旧鬼                         何媛媛

   
    
 死んで間もない新鬼がいました。食べ物を上手に見つけられなくて、いつもお腹をぺこぺこに空かせていて痩せ細り、憔悴した姿をしていました。ある日、いつものように食べるものを探してふらふらと歩いていますと他の鬼に出会いました。よく見ると、なんと、それは生前の友たちで、既に死んで二十年にもなる旧鬼でした。旧鬼は新鬼と姿がまったく異なり、太って、元気そうです。二人は挨拶を交わしてから、旧鬼が不思議そうに新鬼に訊ねました。

 「あなた、どうしてこんなに痩せ細っているのですか?」

 新鬼は

 「食べ物がなかなか見つけられなくて、いつもお腹を空かせています。あなたはきっと色々な経験がおありでしょう。食べ物はどうやって探せばよいのでしょう」

 と旧鬼に教えを乞いました。旧鬼は

 「そんなことは難しいことではありませんよ。人間の前で少し悪戯をするだけで、必ず怖がってすぐ食べ物を出してくれますよ」

 新鬼は旧鬼の言うとおりに行動を始めました。彼はある大きな村に行くと、家の東側にある庭に入りました。その家は仏教を真剣に信じている家でした。この庭の西の部屋に石臼が置いてあるのが見えましたので、新鬼はその石臼を使ってこの家の人を驚かそうと思い、生きている人間のように石臼を回し始めました。ところが、この家の人たちは石臼がひとりで回っているというのに全然怖がるふうもなく、不思議がりもしません。

 この家の主人は家族に言いました。

 「ご覧。石臼がひとりで動いているよ。仏様は我が家の貧乏さかげんを憐れんで、鬼に石臼を挽かせてくれているんでしょう。仏様のご厚意に甘えてもっと麦を挽いて貰いましょう」

 そして沢山の麦を運んで来て鬼に挽かせました。鬼は、その内食べ物を運んで来てくれるでしょうと期待していたのですが、夕方まで数斛(注)の麦を挽きましたが食べ物を運んでくる気配は一向にありませんでした。.鬼は失望し、すっかり疲れ切ってその家を離れました。

 新鬼はとても腹を立て、旧鬼を罵りました。

 「あなたはどうして私を騙したのですか?」

 旧鬼は

 「一回位うまく行かないからといって怒るものではないですよ。もう一度試してみてください。今度はきっと何か貰えますよ」

 新鬼は再び出かけました。今度は村の西にある家に行きました。この家は、道教を信じる家です。この家の玄関に臼があり、新鬼は杵を持ち上げ人間のように臼をつき始めました。しかし、この家の人も少しも驚いた様子がなかったのです。この家の人はこのように言いました。

 「鬼が臼をついているのよ。この鬼は、昨日村の東の家に行って麦挽きの手伝いをしていたと聞いたけれど、今日は我が家を助けに来てくれたのでしょうか。早く粟を持って来てください。ご厚意に甘えて搗いて貰いましょう」

 すると、粟が運ばれて来、下女もふるいを持って手伝いに来ました。新鬼は働きながら食べ物を待っていましたが、仕事が終わって、疲れきっても、結局何も与えてくれませんでした。

 新鬼は大変不満に思って、大きな声で旧鬼に詰め寄りました。

 「私とあなたは昔の友たちでもあり、親戚関係でもあったのに、どうして何度も私を騙すのですか?二日間人の家で手伝ってみましたが、ご飯一杯も貰うことが出来ませんでした」

 旧鬼は

 「あなたは運が悪いですね。あの二軒は、仏教や道教を深く信じているのですから、怖いものは何もないのです。だから脅かすのは難しいですよ。この次は普通の家に行って少し驚かせてみてください。必ず食べ物を貰える筈ですよ」


 と勧めました。

 新鬼はお腹が空いて仕方がありませんので、旧鬼が勧める通りに試してみるしかないと考えて、再び出かけ、一軒の家の前に来ました。ここは旧鬼の言う普通の家かなぁと新鬼は考えながら、奥へ進んで行きました。見ると、庭で何人かの若い女性たちが食卓を囲んで食事をしており、ほかには白い犬が一匹いるだけでした。

 この犬を操って女性たちを驚かせてみようと新鬼は考えました。そこで、犬を抱え上げ、宙に浮いたまま歩き回らせました。この家の人たちはこれまで犬が宙に浮いたまま歩き回るなどというような事は聞いたことも見た事もなかったので、腰を抜かさんばかりに吃驚し、大騒ぎになりました。そして占い師を呼んで来て占ってもらいました。占い師は次のように言いました。

 「食べ物が欲しいお客さんが来ていますよ。犬を殺して料理し、その他、美味しいご飯や果物、それにお酒なども用意して庭で祀ってください。そうすれば、もう怪しいことを起こさないでしょう」

 この家の人は、占い師の言う通りにしました。新鬼は遂にいろいろな食べ物を手に入れました。その後も、新鬼はお腹がすくと悪戯(いたずら)をして人々を驚かせては、食べ物を手に入れることができるようになりました。本当に旧鬼が教えてくれた通りでした。

 
注:昔の容量を量る器、最初は一斛の容量は十斗だったが、のちに五斗に変わった。



                               
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