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  媛媛講故事―51

怪異シリーズ 20          花好き翁Ⅰ
                                 何媛媛


   
 ある村に花や植物が大好きな老人がいました。名前は秋先と言います。彼の両親は既に亡くなり,嫁も貰っていません。先祖から受け継いだ屋敷の一部を売り、代わりに大きな庭付きの屋敷を買って一生大好きな花と暮らしていこうと心に決めました。

 秋先は一年中植物の栽培に夢中で、全ての気持ちを花作りに注ぎました。どこかに珍しい花があるという情報を耳にすると、お金に糸目を付けず彼は必ず買ってきます。意地の悪い人がお金を目当てに、どこかで切り取った草花の根本を泥で包んで秋先に売りつけた事もありますが、不思議なことに秋先がそれを庭に植えて肥料をやり、水を注ぐと何日もしない内にその草花は根を張って綺麗な花を咲かせるのです。

 秋先は植物を‘命あるもの’として愛して、骨身を惜しまず面倒を見ました。

 毎朝夜明け前に起きて水をやり、夜遅くまで落ちた花の始末や、花期の終わった草花を片付けたりしながら、或る花がいよいよ今にも咲きそうになると、ずうっとその花の前に佇んで、まるで赤ちゃんの誕生を待つかのような気持ちで神様に祈りながら開花を待っています。秋、植物が実り、それを収穫するときは必ずその植物の前で先ずお辞儀をし、お礼の言葉を言ってから摘み取ります。

 のんびりくつろぐ時、彼は庭の椅子に座って目の前の花や草や樹木を眺めながら、お茶やお酒を飲み、幸せいっぱいな気持ちを味わうのです。

 彼が一番嫌いな人は花を勝手に折ったり、植物を虐めたりする人です。彼は常に言いました。“花は一年に一度しか咲かない。しかも花の命は数日しか持たない。花が微笑んでいる真最中に折ってしまうのは、人間が一番幸せな時に殺されることと同じじゃ。花を折るなどとはとんでもない事だ”

 ですから秋先は、秋先が大好きな野ばらばかりでなく、道端に咲いているどんな花も絶対手折ることはしませんでしたし、切り花のプレゼントも全く受け取ろうとしませんでした。

 長い年月を掛けて丹精を続けたおかげで草花も樹木も秋先の庭ではすくすくと成長し、牡丹、バラ、百合、鶏頭、カンナ、罌粟、センノウ、タチアオイ、木犀、梅、金柑、桃、梨等々が色とりどりに一年中綺麗な花々が咲き乱れ、果実の美味しそうな薫りが漂っています。庭は木の柵で囲まれているのですが、誰もが柵を通して庭の中の景色を見られますので、秋先の庭の脇を通りかかる人々はその景色の美しさに驚嘆し、陶酔してしまいます。

 秋先は植物を育てるために、色々な肥料や、道具や、苗などにお金を惜しみませんでしたが自分自身は、いつも粗末な食事をし、質素な服を着ていました。秋になると庭の植物がたくさん実をつけますが、それらは近所の人たちや、友達に分け与え、それでも残るものがあれば市場で売りましたが、儲かったお金はいつも貧しい人々に上げてしまうのでした。
 このようにして秋先は日々を過ごし、町の人々から[花痴]と呼ばれていました。(つづく)
                                                                    


                         
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