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  媛媛講故事―54

怪異シリーズ 23          花好き翁Ⅳ

                                 何媛媛


   
   張委たちが立ち去った後,隣人たちが秋先を囲んで慰めていましたが暫くするとみんなも帰りました。秋先はただ一人、めちゃくちゃにされた庭を片付け始めました。片付けながらも目の前の、無残な植物の様子を見て、また悲しみがこみ上げて我慢できなくなりました。涙がぽろぽろ落ちてくると声をあげて泣き始めました。

 とその時、後ろから女性の声が聞こえてきました。

 「何でそんなに悲しんでいますか?」

 秋先はびっくりして振り返りますと、一人の美しい女性が立っています。

 「え?どちら様でしょうか?どちら様のお家のお嬢さんでいらっしゃいますか?」

 「私は近くに住んでおります。秋先さんの庭は、ボタンがちょうどう見頃だと伺いましたので参りました」

 秋先は『ボタン』という言葉を聞いて、また悲しみをこみ上げて、思わず涙が溢れました。

 「ご覧ください。この庭はボタンばかりか今は、何もなくなってしまいました」

 秋先は両目から涙を溢れさせながら言いました。

 「一体どういうことなのでしょうか?教えて頂けませんか?」

 と女性は優しく訊きました。秋先は事の一部始終を女性に話しました。女性は聞き終わると言いました。

 「こんな悪行をするようでは、張委はきっとその報いを受けるでしょう。それよりも早く庭を綺麗に片付けて花を再び咲かせましょう」

 秋先は首をつよく横に振りました。

 「もう駄目だよ。折られた花、踏みにじられた花は今年はもう終わりじゃ!」

 「心配しないでください。私は花に元気を与えたり、綺麗に咲かせたりする家伝の秘策を知っているのです。ご一緒にやって見ませんか?」

 「え,それは本当なのか? こんなに哀れな姿になった花をもう一度前と同じように咲かせることができるというのかね?」
 「やって見ないとわかりませんが。とりあえずは秘策を施して見ましょう」

 と、女性は腰を屈めると倒れた花を立て直し、叩き落された花を拾い集め始めました。秋先もそのあとついて、一緒に片付けながら半信半疑の口調で訊きました。

 「もし、お嬢さんが本当にこの可哀想な花たちを救うことができればこの上もない感激です。わしは何も報いることが出来ませんが、今後お嬢さんが来られた時はいつでも花を見て頂きましょう」

 「まあ、それはありがたい事ですわ。では、花に水を掛けてあげなければなりませんので、水を運んで貰えませんか?」

 と、女性は頼みました。

 「はい、少々お待ち頂ければすぐ運んできましょう」

 秋先は言うと、水を汲みに行きました。

 暫くして秋先が戻って来ましたが、目の前の景色に大変吃驚しました。先程折れたり倒れたりした花々や、植物は既にびんと立て直されて、花も色鮮やかに奇麗に咲いて、地面に投げ捨てられた植物の残骸もすっかり消えてしまい、まるで何事も起らなかったかの様子です。

 秋先は呆然として目の前の庭を見ていましたが暫くして我に返りあたりを見回して女性を捜しました。しかし、さっきの女性の姿はどこにもありませんでした。

 もう帰ってしまったのかと思った秋先が玄関まで行ってみましたが、やはり女性の姿はありません。隣人たちに尋ね歩いても、誰も秋先が話すような女性を見かけていませんでした。

 秋先は興奮して先程の不思議な出来事を皆に話しました。皆も秋先が語る話を奇妙に思いましたが、「花を命ほどに大事にしている秋先を神様が知り感動されて助けにきたに違いない」と言い合いました。そして秋先の庭を見た皆はこの不思議な事実を村中に伝えました。話を聞いた村の人々は皆、不思議に思って秋先の庭にやって来て、神様に修復された庭を見学しました。

 そんな村人たちの姿を見た秋先は一人で花を楽しむよりも大勢の人々と一緒に楽しむ方が幸せなことに気付きました。秋先は、以前の自分を反省し、庭の玄関を大きく開いて、村の人々を迎え入れて、皆に思う存分庭の景色を観賞して貰いました。そして秋先は皆の笑顔を見、秋先の庭の花々を褒める言葉を聞き、とても幸せな気持ちになるのでした。

 ところで、張委は家に帰ってからずっと秋先の庭の事を考えていました。そして翌朝、家のもの達に言いました。 

 「昨日はあの爺めに怒鳴られ、どうしても腹に据えかねる。今日は必ずあの庭を手に入れる。もし俺に譲らないなら庭をめちゃくちゃにしてやろう」 

 張委は再び、ならず者の一行を連れて秋先の庭に向かいましたが、その途中の道ばたで人々が話している会話が耳に入りました。

 「ねぇ、お前さまも聞いたかね?秋先の庭は神様が守っているっていうじゃないか」

 「そうだね。ならず者たちに乱暴された庭が間もなく元通りになって、花は前よりも奇麗だそうだよ」

 「真面目に頑張れば必ずいい報いがあるってことだね」

 張委達は最初は冗談話だろうと思いましたが立ち止まってよく聞いてみると、いかにも真実に違いない話だと感じられ、急いで秋先の庭に行ってみると、庭はこれまでと違って、玄関から人々が出たり入ったりしているし、庭の中もとても賑やかでした。張委たちが急いで秋先の庭に入って見ると、信じられない光景が広がっていました。昨日自分たちによって乱暴された植物が元気に甦り、花も鮮やかに咲いて、まるで何事もなかったかのようでした。       (続く)      
                                                                    


                         
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