群青の海へ わが青春譜                 平山郁夫 著       中公文庫

                      

 十代の頃の何年か,平山郁夫氏のカレンダーを愛用していた。購入していたのではなく、父がどこからか貰ってきた。姉妹は誰も興味を示さなかったが、なぜか教養も芸術的センスもない私が、異常な執着心で毎年それを心待ちにしていた。

 高校生のときに、平山氏の個展にでかけた。意外に地味な絵ばかりだなー、と思っていたら、最後に緑いっぱいの絵が飛び込んできて、わっ!となった記憶がある。感受性豊かな思春期だった。素直に感動した。

 カレンダーから、絵を切り取って、あちこちに貼って眺めていたことも。狭い団地の小さい勉強机に座って、切り抜きの熊野路の緑をずっと見ていた。シルクロードの絵も随分、貼った。9年前、親から借金して、JTBのシルクロードのツアーに40万円つぎ込んだのは、あのときの刷り込みだったのかと、今、思い当たったりして。平山氏の自伝的エッセイを読んで、そんな忘れていたことを思い出した。

 大御所のイメージしかなかった氏だが、生活苦や原爆症に悩まされながらも、地道な努力を重ねて、ようやく認められていく。きっかけとなった作品「仏教伝来」は、人生のどん底にいた氏が、新緑の力に勇気を得て描いた。オアシスに励まされて砂漠を旅していた玄奘三蔵。そんな想像から生まれた絵だ。日頃から仏教に惹かれていた描き手の、人生経験や読書経験が熟成し、絵筆を通して世界に出てきた瞬間だった。

 氏、曰く。作品は、描き手が身につけたもの、蓄積したものしか出てこない。これは絵だけでなく、どんな仕事もそうだ。

 この「わんりぃ」も、それぞれの書き手の豊かな人生経験が表出されて、ずっと続いている。なんだかそう思うと、乏しい人生経験しか持たない私が、ページを汚していることが、改めて申し訳なくなってくる。この「読む」も、もっと頑張らないと。…えっと、次回から…。

(真中智子)



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