本当は恐ろしいグリム童話
本当は恐ろしいグリム童話Ⅱ    桐生 操 著                     KKベストセラー

                      

 日本でおなじみのグリム童話は、グリムの生前最後の版となった第七版に基づいているそうだ。グリム童話の初版や草稿など参考にし、桐生氏がアレンジを加えた本書は、大人の事情を隠さず書いている。決してハッピーエンドでは終わらせてくれない。

 王子の愛によって眠りから目覚めた「眠り姫」は、めでたく王子と結ばれるが、眠っていた100年間のジェネレーションギャップを埋めるのに苦労する。人魚姫は、人間となって王子の寵愛を受けるが、複雑な人間関係には馴染めず、魅力であるはずの純粋無垢さが疎まれる。

 ヘンデルとグレーテルに出てくる魔女は、実は貴族の家臣で、少年を肥やして主人に献上していた。シンデレラにドレスやガラスの靴を与えていたのは、魔法使いではなく、12時の鐘が鳴る前に帰らなくてはならない意味は…。また、白雪姫のガラスの棺を譲り受けた王子様はちょっと変わった性癖の持ち主だった…とか、大人の事情で綴りなおした物語はIとⅡをあわせて13話になる。

 この大人の童話や、映画や芝居などでアレンジされつづける童話は、それだけの懐の深さがあってこそ。子どもの頃、アニメで観ていた「日本昔ばなし
」も、結構なパワーを持っていて、未だに思い出す物語もある。子どもの頃に聞いた物語は、どこかで生きていて、大人の事情を分かって、初めて納得することもあるのかもしれない。

 今回、大人の童話を読んでみて、しみじみ思うことは、完璧な人間なんていないということだ。主人公の少年少女たちは、我慢することが苦手だし、誘惑に弱いし、「やってはいけない」といわれたことには必ず手を出す。彼らを取り巻く大人も、いい人ばかりではなく、いじめる人あれば、騙す人あり、命さえ奪おうとする人もいる。でも、そこに物語が生まれ、苦労するからこそ、お姫様は王子様に出会えるのかも。

 塔やお城の外は危険だけど、一歩踏み出さないと、人生は始まらないということか。

(真中智子)



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